2017年4月に予定されていた消費税率10%への引き上げが19年10月に再延期されることになった。参議院選挙を控えた選挙対策でしかなく、日本経済の将来に禍根を残す愚策となる可能性すらある。(「週刊ダイヤモンド」編集部 大坪稚子、原 英次郎)

 時計の針を戻した2014年11月。「再び延期することはない。皆さんに約束する」と安倍晋三首相は会見で力強く述べ、15年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを17年4月に延期したのだった。その後も、事有るごとに、「リーマンショックや東日本大震災級の重大な事態が起きないかぎり、予定通り、消費増税を実施する」と強調してきた。

 ところが、景気の弱さもあり、風向きは今年に入ってから、増税延期に変わり始めた。3月から5月にかけてポール・クルーグマン教授やジョセフ・スティグリッツ教授といったノーベル経済学賞を受賞した経済学者を招いて、「今、増税すべきではない」との助言を受けたのはその象徴だろう。

 そしてついに、通常国会後の6月1日の会見において、「内需を腰折れさせかねない消費税率の(10%への)引き上げは延期すべきであると判断した」と正式に表明するに至った。

 安倍首相の説明には一貫性がないのだ。

選挙対策の増税延期は将来に禍根を残す愚策にも伊勢志摩サミットで、安倍首相はリーマンショック並み危機だと主張した(代表撮影)

 5月の伊勢志摩サミットで、安倍首相は、「コモディティ価格の推移」「新興国の経済指標」「新興国への資金流入」「16年成長率の予測推移」の四つの経済指標を使い、特に新興国の状況を強調しながら、現在の経済状況はリーマンショック前に酷似していると説明した。

 その認識がずれている。例えば、新興国経済について考えてみよう。確かに、下図のように、リーマンショック後の景気回復をけん引してきた中国経済は減速し、資源価格の低迷を受け、ブラジル、ロシアなど資源比率の高い新興国はマイナス成長に陥っている。

 ところが、ここにきて市場では「中国経済は最悪期を脱した」とみられ、原油価格も底打ちが指摘される。米国の景気は底堅く、欧州も緩やかに回復している。世界経済リスクがリーマンショック並みで増税ができないほどに高いとはいえないだろう。

 さすがの安倍首相も1日の会見では「中国や新興国の経済が落ち込み、世界経済が大きなリスクに直面している」として、サミットでも「共通の認識を得た」とは説明したものの、「現時点では、リーマンショック級の事態は発生していない」とも認めた。