リーダーらしくない人が真のリーダー

一方、日本などでは多くの社長さんと時間を過ごし、お話を伺うと、繊細な方がとても多い。会議をしていても、資料の文字の間違いに最初に気がついたり、お酒の場でもグラスが空いているのに気づいたりするのは経営者なのです。

ダボスでは閣僚の方の鞄持ちをさせていただいたこともありましたが、閣僚の方たちの気遣い、察知力は、すごいものがあります。どっしり座って、それこそ何もしなさそうなイメージをお持ちかもしれませんが、実際は全然違います。「その席、寒くない?」「お水がなくなっているね」など、とても繊細で気配りが行き届いた方がいらっしゃるのです。

大胆で、豪快な「ボス猿」タイプが必ずしもリーダーになるのではない。実は、人の細やかな気持ちを感じられたり、みんながやらないことがやれたり、いろいろな人の球拾いができる人こそ、リーダーにふさわしい。つまり、意外とリーダーに向いていないように見える人がリーダーに向いていて、「オレがリーダーだ」って言っている人ほどリーダーに向いていなのではないか、ということです。政治の世界などを見ていると、向いてない人ばかりが政治家になっているかもしれないなどと思ったりもします(笑)。

そういったことを、経営者さんの実例をとおして、多くのリーダーの方に知ってほしいと考えたのが『最高のリーダーは何もしない』を書こうと思ったきっかけです。

誰もが自身のリーダー

最後にもう1つお話ししたいのは、私たち一人ひとりが、自分の人生におけるリーダーである、ということです。

自分という人間をどうやってリードしていくかと言えば、自分自身の心なんですよね。

以前、テレビでキャスターの仕事をしていたときは、本当にいろいろな人に、いろいろなことを言われました。「ああしたほうがいい」「こうしたほうがいい」「こんなことをしてはだめだ」と。かなり悩みましたが、あるとき、はっと思いました。

「みんないろいろ言ってくれるけど、私のことを死ぬまで責任を持って導いてくれる人って何人いるんだろうか?」と。みなさんはいかがですか?そんなにたくさんはいないですよね。

身内や、ごくごく近しい人たち、そして究極は自分です。みなさんの誰もが、自分自身の中にリーダーというものを持っていて、いろいろな決断を重ねながら生きている。誰もが自分自身のリーダーなわけです。

そういう中で「リーダーシップとはどういうものなのだろうか」について、みなさんと一緒に考えられたらいいなという気持ちもあって、この本を書かせていただきました。そんなことを頭の片隅に置いていただきながら、本をお読みいただけるとうれしく思います。

(次回からは田坂広志氏との対談をお送りします)

藤沢久美(ふじさわ・くみ)
シンクタンク・ソフィアバンク代表
大学卒業後、国内外の投資運用会社勤務を経て、1996年に日本初の投資信託評価会社を起業。同社を世界的格付け会社スタンダード&プアーズに売却後、2000年にシンクタンク・ソフィアバンクの設立に参画。2013年、代表に就任。そのほか、静岡銀行、豊田通商などの企業の社外取締役、文部科学省参与、各種省庁審議会の委員などを務める。
2007年、ダボス会議(世界経済フォーラム主宰)「ヤング・グローバル・リーダー」、翌年には「グローバル・アジェンダ・カウンシル」メンバーに選出され、世界の首脳・経営者とも交流する機会を得ている。
テレビ番組「21世紀ビジネス塾」(NHK教育)キャスターを経験後、ネットラジオ「藤沢久美の社長Talk」パーソナリティとして、15年以上にわたり1000人を超えるトップリーダーに取材。大手からベンチャーまで、成長企業のリーダーたちに学ぶ「リーダー観察」をライフワークとしている。
著書に『なぜ、川崎モデルは成功したのか?』(実業之日本社)、『なぜ、御用聞きビジネスが伸びているのか』(ダイヤモンド社)など多数。
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