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万引き老人たちの、腹立ち、呆れ、やがて哀しき実録集

『万引き老人』

仲野 徹 [HONZ]
【第3回】 2016年6月24日
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売り場のコロッケをつい半分食べて…

 老人の万引きが増加しているというのは聞いたことがあった。しかし、まさか、ここまでとは思っていなかった。驚いただけではなく哀しくなってしまったが、こういう現実を直視せずに現代社会を論じることはできないはずだ。

 あちこちのスーパーに出向く保安員、現役の万引きGメンによって書かれた実録集である。20件あまりの事例が紹介されているが、それぞれに、あきれるような、腹立つような、そして、泣きたくなるようなドラマがある。

 金額がいちばん少ない事件は、被害金額54円。売り場にあったコロッケを半分食べてしまった老人による万引きである。やせこけた81歳のホームレス男性が、ひもじさに負けて、店内でぱくっとやってしまったのだ。所持金はゼロ。

 『ごめん、一銭もない…』と語る老人に名前を書かせても、波打っていて読めない。生活保護を受ければいいのにと諭しても、金に困った時に高利貸しに売ってしまったので戸籍がないという。被害額も少ないし、どうしようもないので、二度と店に来ないことを条件に放免となる。

 なのに、その老人が数日後に舞い戻ってきた。そして、コロッケとメンチカツをパックにいれる。すわ再犯かと気をもんだところ、きちんと支払いをしてくれた、と安堵する。その内容にもかかわらず、決して殺伐とならずに読み応えある本になっているのは、著者である伊東氏の、このような厳しくも人間味あふれる観察眼だ。

 哀しい話はコロッケ老人だけではない。自立支援施設 や介護施設で食べたいものが食べさせてもらえないために好物を万引きする老人。寝たきりの息子のために好物であるヨーグルトを万引きする老母。ご主人様から強要される万引きに逆らえない奴隷老婆。うつ病の娘を伴って、必要最低限の食べ物をくり返し万引きする70歳の母。同情の余地があるとはいえ、犯罪であることは間違いない。しかし、あわれにすぎる。

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仲野 徹 [HONZ]

1957年、「主婦の店ダイエー」と同じ年に同じ町(大阪市旭区千林)に生まれる。大阪大学医学部卒業後、内科医から研究の道へ。京都大学医学部講師など を経て、大阪大学大学院・生命機能研究科および医学系研究科教授。専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。 http://www.fbs.osaka-u.ac.jp/labs/nakano/
ノンフィクション、とりわけ伝記が好き。それが昂じて専門誌に「なかのとおるの生命科学者の伝記を読む」を連載。単行本(学研メディカル秀潤社)として上 梓したところ、成毛代表の目にとまりHONZに参加。書籍購入費の抑制、および、仕事と飲酒と読書のバランスとれた鼎立、が永遠の課題。

 


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