9月1日、ソニーは今期初めての早期退職者の募集を開始した。前回実施された2009年初頭以来、約1年半ぶりとなる。
早期退職者の対象となっているのはテレビ事業部などを抱えるホームエンタテインメント事業本部と法人向けの製品を扱うプロフェッショナルソリューション事業本部、部品を扱うデバイスソリューション事業本部の合計3事業部。応募条件は勤続10年以上で、一般社員は35歳以上、管理職は40歳以上だ。募集は11月末で締め切り、10年12月末に退職予定だ。募集定員については「希望者を募集するかたちを取っているため人数は決めていない」(ソニー広報)という。
ある30代前半の技術系社員は、電機メーカーの花形部門であるテレビ事業部の技術者にも早期退職の説明があったことに大きな衝撃を受けたという。「年収の4~5倍程度の退職金を提示されたと話していた。今期、会社はテレビ事業の黒字化が見えてきたと息巻いているが、正直、まったく喜べない」とため息を漏らす。
テレビ事業部の技術者が早期退職の対象となったのは今回が初めてではない。だが、これまでは他の事業部の技術部門に配置転換するなどして、なるべく早期退職させることなく人員の調整を行っていたという。「今回の対応を見る限り、配置転換で凌ぐことが難しくなってきたのだろう。ついにリストラの波が技術者のところまで来たということだ」(同)と話す。
ソニーは今期、750億円の構造改革費用を見込んでいる。今回の早期退職プログラムもその一環だ。同社のいう構造改革とは、主に垂直統合型から水平分業型への製造体制の転換を指す。この転換を迫られる最大の理由は、液晶テレビが日用品(コモディティ)化し、単価下落によって利益確保が難しい状況になっているからだ。実際、コスト削減が製品価格の下落スピードに追いつかず、ソニーのテレビ事業は6期連続赤字である。
設計から製品の組み立てまでのすべての製造工程を自社で行う垂直統合型の製造体制では、コスト削減余地に限界がある。思い切ってEMS(製造受託会社)などの外部企業を活用した水平分業型へ移行しなければテレビ事業の黒字化は見えない。これまでメキシコとスロバキアのテレビ組み立て工場を台湾大手EMS、鴻海精密工業に売却し、9月にはスペインのテレビ工場を地元企業に売却するなど矢継ぎ早に手を打ってきた。「ソニーはようやく現実を直視して動き始めた」(大手EMS首脳)と評価する声もある。
今期、テレビ事業の外部委託比率を約50%(前期は約20%)まで引き上げる。こうした移行の過程で余剰人員が出てくるのはやむをえないのかもしれない。だがソニーを支える社員の士気は下がる一方だ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)