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「決め方」の経済学
【第3回】 2016年7月12日
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坂井豊貴

すでに「改憲」は行われていた
憲法にまで影響を与える「選挙制度」の変遷

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自民党、公明党をはじめとする改憲勢力が3分の2を超えた今回の参院選。これで改憲への国民投票を発議するハードルをクリアしたことになる。
『「決め方」の経済学』の著者である坂井豊貴氏によると、この「改憲ハードル」は、1994年の選挙制度改革ですでに低くなっていたという。選挙のやり方しだいで、改憲のしやすさが大きく変わると指摘する。詳細を聞いた。

改憲勢力が
衆参両院で3分の2を超えた

 7月9日の参院選により、衆議院のみならず参議院においても、与党の自公をはじめとする改憲勢力の議席が3分の2を超した。憲法第96条は、改憲の国民投票を発議するハードルを「衆参両院で3分の2」と定めているが、はじめてこのハードルがクリアされたことになる。このハードルを改めて考えてみたい。

 かつて「衆参両院での3分の2」は高すぎるハードルと思われていた。実際、これまで安倍首相も、まずは第96条を先行改憲して、ハードルそのものを下げたいと何度も発言している。

 だが最近、安倍首相はそうした発言をかなり抑えていた。

 その理由は、改憲ルールである第96条から変更することへの批判が強かったのもあるだろうが、そもそもその必要性が薄れていたからだろう。そして実際、今回の参院選で、その通りであることが明らかになった。

 一般的にいって、ハードルをクリアするには二通りのやり方がある。1つ目は高く跳ぶこと。2つ目はハードルを下げることだ。ほかにはハードルを無視するという荒業もあるが(例 違憲の疑いが濃厚な法案を無理やり国会で可決)、これはルール違反なので「クリア」とは呼びがたい。

参議院でも「地滑り的勝利」が
起きやすくなっている

 すでに衆院選では「地滑り的勝利」が常態化していることを思い起こそう。2005年の「郵政解散」以降4回の衆院選では、小選挙区制のほうでは、勝つ側は40%程度の得票率で、70%を超す議席を得るのが続いている。勝つときには大勝し、敗けるときには大敗するのだ。衆院では、「3分の2」は、変えにくさを確保する硬性憲法の条件として、もう機能していない。

 参院選は小選挙区制ではないが、小選挙区制と同様である「1人区」が増える傾向にある。今回は改選121議席のうち32議席が「1人区」で、それらはいずれも非都市部に存在するそして自民党は非都市部での支持が相対的に強い。今回は野党が「1人区」で統一候補を立てたが、自公は32区のうち21区を制した。なお前回の参院選では野党が統一候補を立てず共倒れしたので、自公は31区の「1人区」のうち29区を制して圧勝している。多数決による選挙は票の割れにひどく弱い。

「衆参両院で3分の2」といっても、衆院や参院の議員の選挙のやり方しだいで、その実質は変わる。かつての中選挙区制のもとでは、たしかにそのハードルは十分に高いものであった。だが1994年に選挙制度改革がなされ、選挙制度の全体的な「小選挙区制化」が起こり、ハードルの実質が下がった。

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坂井豊貴(さかい・とよたか)慶應義塾大学経済学部教授。ロチェスター大学Ph.D.(Economics)

1975年生まれ。慶應義塾大学経済学部教授。。横浜市立大学、横浜国立大学、慶應義塾大学の准教授を経て、2014年より現職。人々の意思をよりよく反映させる選挙方式、物を高く売るオークション方式、人と組織を上手く結ぶマッチング方式といった制度設計の研究で、多くの国際業績をあげる。著書には『マーケットデザイン入門』(ミネルヴァ書房)、『社会的選択理論への招待』(日本評論社)といった定番テキスト、および一般向けの『マーケットデザイン』(ちくま新書)、『多数決を疑う』(岩波新書、2016年新書大賞4位)などがある。2015年義塾賞。


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