日系各社が相次ぎ事業拡充<br />過熱するタイのタイヤ市場 タイ・ラヨーン県アマタシティ工業団地にある住友ゴムのタイヤ工場。点線内の空き地にも工場を建て、12万本分の生産能力にする

 タイで日本のタイヤ各社の事業拡充が相次いでいる。グローバル戦略での輸出拠点として生産能力増強や、タイ国内市場のシェア拡大に向けた販売戦略の強化を目的にしのぎを削っているのだ。

 最大手ブリヂストンは、乗用車と小型トラック用タイヤを生産する第2工場の増強を発表、213億円を投じ1日当たりの生産能力を1万3500本引き上げ、2014年中に5万本にする。横浜ゴムも97億円を追加投資し、11年にも現在の倍の年産400万本規模に拡大する。

 08年秋の金融危機で延期していた計画が、需要の本格回復で一気に進み出した格好だ。

 とりわけ積極的なのが、住友ゴム。二つある工場の1日当たり生産量を現在の4万本から12年に7万本、14年頃までに12万本にまで増やす予定。生産能力は世界最大規模を誇り、投資額は総計1000億円を見込む。生産量の約8割が欧米や中近東への輸出向けだ。

 なぜ、タイヤ各社はタイに熱い視線を注いでいるのか。

 第1の理由は、日本の人件費の約10分の1ですむというコスト競争力。第2に、「東洋のデトロイト」と称される自動車産業の集積度の高さにある。主要な日系自動車メーカーは進出ずみだ。

 加えてタイの自動車生産は好調に推移、今年1~8月の生産台数は09年の実績100万台をすでに超え、105万台に達している。

 タイ政府が推奨するエコカープロジェクトも追い風だ。条件を満たしたエコカーを生産すると自動車メーカーは法人税の免除などが受けられ、日産自動車やトヨタ自動車、ホンダなどがすでに認可を取得。一部車種は日本からの生産シフトが進む。タイ産の日系新車向けタイヤ需要は12年に160万台分以上が想定されている。

 だが、明るい話ばかりではない。従来、日系自動車メーカーが新車採用するタイヤは日系と仏ミシュランなど大手欧米勢が相場だったが、タイ・エコカー認定1号となった日産「マーチ」の最量販グレードに標準装着されたのは台湾のメーカー正新だった。マーチは旧モデルから約3割コスト削減し、日本に“逆輸入”される話題のクルマだ。

 住友ゴムの池田育嗣専務は「タイで勝っていかないと、われわれの地位は危ない」と危機感を見せる。ブランド認知が高まる新車装着でのシェア拡大に本腰を入れ、今年末に24%程度、早期に30%以上を狙う。期待を寄せるのは日本のエコタイヤ市場で首位をマークする「エナセーブ」だ。転がり抵抗を20%以上低減し、クルマの燃費向上に寄与する同製品は「新車装着にオファーがあり、対応していく」という。技術力をアピールし、廉価品との差別化を図る。

 一方、ブリヂストンはエコタイヤ「エコピア」をタイ市販市場に投入する。4月から中国に投入したところ想定以上の売れ行きだったため、高付加価値商品ながら新興国にもニーズはあると判断した。

 タイを舞台にしたタイヤ競争は当分過熱の一途をたどりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 柳澤里佳)

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