「ものの本質を考える」ということ

 戦略思考とは、本質を見抜く思考のことです。そのために、まず事象を分解します。これにより、渾然一体となっていたり、「常識」というひと言で片付けられたりしている事象のカラクリを正確に把握していきます。

 たとえば、『企業参謀』では、「東京から伊勢志摩の一泊旅行でスポーツ三昧、1万7000円のパッケージ旅行は安いか」という設問があげられています。1970年代の本なので現在の相場から見れば激安ですが、本来高いか安いかは個人の趣味や関心、懐具合にもよります。しかし、それでは答えが得られません。

 そこで、まずそれぞれの活動に要する所要時間で分解してみます。すると経過時間の約半分をバスの移動にとられていることがわかります。さらに睡眠や食事に30%、肝心のスポーツをする時間はわずか5時間、全体の14%しかないことがわかります。スポーツを5時間して1万7000円です。食事代の2000円を差し引いても1万5000円、1時間当たり3000円です。これなら東京近郊の高価なテニスコートを1時間1000円(これも当時の相場)で借りたほうがよほど安いということになると結論付けています。

 もちろん、ここには旅行の途中で見る景色とか、東京から離れたときの解放感などは加味されていません。しかし、問題はここにあります。「渾然一体」とした雰囲気に、なんとなくお金を払っていることです。これでは、高いか安いか判断できませんし、他の選択肢と比較ができません。

 そうではなく、一度パーツに解きほぐし、個々の要素を正しく把握します。そのうえで、それぞれが持つ意味を自分に都合のいいように組み立て直します。その際、情緒や勘でなく、理屈で組み立てていきます。旅行の例では、時間とお金を基準に計画を比較します。これが、ものの本質を考えることであり、戦略思考なのです。

 戦場であれ、ビジネスであれ、試練を乗り越える際には戦略を生み出す必要があります。その際最も頼りになるのは、やはり人間の頭脳です。冷徹な分析と経験、勘、思考力を総動員して、最も有効に組み合わせる必要があります。そのときに使われる最善の方法が戦略思考なのです。