「当たり前のことを当たり前にやる」
そんな企業でイノベーションは起きない

秋山 その成人発達理論の前提を踏まえたうえでお話ししていきたいのですが、今の日本企業では、「当たり前のことを当たり前にやる」ということが強調されますよね。それこそ、9割以上の企業で良いとされている。でも、私はこの考え方および伝え方こそが、日本企業の停滞を招いているんじゃないかと思っているんです。

加藤 私もそう思います。「当たり前」の意味するところが組織によってまったく違うんですよね。

秋山進さん

秋山 そうなんです。めまぐるしくテクノロジーや事業環境の変化がある今の時代、昔の成功法則に則って仕事をしていたら、企業として生き残ることはできません。でも、多くの企業と人にとっての「当たり前」は、「昨日までと同じことをする」という意味なんです。実際に「当たり前が大事」とおっしゃる方は、「経営理念や行動基準に沿って考えた場合に、その状況下においてすべきこと」を「当たり前」とおっしゃっているのですが、聞くほうは、「習慣的にやっていること」を当たり前として認識しています。こちらのほうが楽だからです。それなら衰退していくのは当然です。

 古巣をあまり褒めすぎるのはよくありませんが、リクルートは社訓に「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」と言い、それを強制する組織文化を持っています。これは発達段階3に言うような組織の基準が「変化」を強く要請するのです。したがって、独自性のある20%しかしない自己主導段階の4の人がイノベーターとして創造行為を行うのではなく、発達段階3の出現率70%の人もまた、「当たり前」のこととして「常に変化し続ける」べく活動するのですから、組織として抜群に創造的になるのも当然といえます。「変化を組織の価値基準にしてしまう」、というのがとても重要なことだと思います。

加藤 それはとてもいいアイデアですね。そのアイデアを成人発達理論に落とし込むと、 社員の継続的な成長を組織の中でうまく根付かせられると思います。

「企業を停滞させてはいけない。そのためには変わり続けることが必要だ」という結論に至って自分の行動を変えていけるのは、「発達段階4」の人の大きな特徴です。ですが、人口分布から見ても、働く人の多くは組織に従順な「発達段階3」に属しています。トレーニングによって発達段階を上げるのは時間がかかります。また、時間をかけても発達段階が上がるとは限りません。組織文化の後押しにより、「発達段階3」の人にも「発達段階4」的な動きをさせようという秋山さんのアイデアは、非常に有効だと思います。

秋山 ちなみに、ここで、「進化」を求めているのではないところがミソです。個別レベルで認識される進化は、実際には既存のパラダイムに強く影響されており現状発展的なものになりがちです。むしろランダムで計算てきない変化のほうが、種(会社)レベルでみた場合には、進化につながっていくのです。創業者たちは相当知的な人たちでしたから、そこまで計算していたかもしれませんし、偶然そうなっただけかもしれません。

 革新をする企業だからといって、その企業にいる人が他より優秀な人ばかりではありませんし、個々人が少々優秀だというのは、実際にはそれほど意味がないと思います。むしろ、組織の価値基準が整備され定着しているということのほうが重要なんだと思います。

加藤 おっしゃる通りだと思います。組織の価値基準が整備されることとそれが定着することは大事ですね。停滞に危機感を抱いている企業ほど「発達段階4」の人材を欲しがるのですが、その実「発達段階3」の従順な人をマネジメントする土台しかない、というのが私の感じている危機感です。「発達段階3」ではイノベーションにつながるような「当たり前じゃない」アイデアが出てこないから、「発達段階4」の人を欲するのですが、そうした人たちを育成する文化や仕組みが整備されている企業は多くありません。秋山さんのアイデアが多くの企業に浸透すれば、そうした問題を解消する一つの突破口になるかもしれません。