誰もが満足する解決策を考える

 2人の子どもが1つのケーキを分けるのに古くから使われている方法があります。1人が切って、もう1人が選ぶという方法です。この方法ならば、どちらも不平を言うことができません。

 この単純な方法が応用された事例があります。国際連合海洋法会議でのことです。協定案の条項では、採掘区の半分は民間企業が、残りの半分は国連所属予定の採掘公団が採掘することになっていました。

 深海底で採掘場所をどのように割り当てるかという交渉になると、豊かな国の企業は良い採掘区を選ぶ技術と専門知識を持っているので、採掘公団は損な取引をするのではないかと貧しい国々は心配しました。

 そこで編み出された解決策は、海底を採掘しようとする企業が、採掘公団に対して採掘区を2ヵ所申請させることだったのです。採掘公団はいずれか一方を直営の採掘区に選び、申請企業には他方の使用を認めます。企業はどちらの鉱区を使えることになるかわからないので、2ヵ所ともできるだけ有望な地点を公団に申請せざるを得なくなりました。この単純な手続きによって、すべての関係者の利益のために企業の優れた専門技術を活用することができたのです。

 こうした交渉術を学ぶうちに、私のなかにパラダイムシフトが起きてきました。どちらが勝つとか負けるとかではありません。双方が満足する解決策を考えることが大事なんだということです。

原則立脚型交渉術を多くの人が学んでほしい

 この交渉術は、プライベートでも十分に役立ちます。交通事故や隣人とのトラブル、町内会のミーティング、家庭では奥さんと夕食を何にするのか、次の旅行先はどこにするのか、子どもと寝る時間について、家の手伝いについて、人間関係を維持しながら建設的な問題解決ができます。

 交渉は駆け引きではありません。相手は敵対者ではないのです。問題の相互解決者であり、同じ目的を持った同志なのです。デキる人は、交渉をそんなふうにとらえています。相手から奪うことばかり考えていると、そのときは成功しても、繁栄は長く続きません。ビジネスでもプライベートでも、『ハーバード流交渉術』の根幹である原則立脚型交渉術を多くの人が学んでほしいものです。

参考文献/『ハーバード流交渉術』ロジャー・フィッシャー、ウィリアム・ユーリー著 金山宣夫、浅井和子訳(三笠書房)