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日本に巣食う「学歴病」の正体

「学歴幻想」に取り憑かれた高卒ディレクターの凄まじい劣等感

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第28回】 2016年7月26日
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 今回は、最終学歴が高卒ではあるものの、多数の大卒者の中で一定の仕事の実績を残した40代後半の男性を紹介したい。彼は学歴への執着や劣等感が強い。大卒者へのねたみ、ひがみはすさまじい。

 なぜここまで卑屈になり、屈折しているのか。それを考えると、日本社会に浸透する、独特の能力観が浮き彫りになってくる。この「能力の捉え方」に多くの人が呪縛されているが故に、学歴病に侵されてしまう。ついには、恵まれた自らの人生に気ずくことなく、生涯を終える人すらいる。

 今回は、そうした「能力観」の影の部分に迫りたい。そのことにより、会社員などが生きていく上で必要となる、今後の活路を見出すことができるのではないか。


仕事仲間を偏差値で査定する
自称・演出家のコンプレックス

多数の大卒者に混ざって互角に仕事をしてきた高卒者の中にも、学歴に対して深いコンプレックスを抱く人がいる。背景には、日本社会に浸透する独特の能力観が横たわっている

 「ねぇ、どこの大学を卒業したの?」

 自称・演出家の山田和彦(仮名・48歳)の声が、渋谷の中華料理店に響く。彼の前には、20代前半の男性や女性がいる。いわゆる、AD(アシスタントディレクター)である。この春、入社したばかりだ。

 この数ヵ月間、山田のもとで番組制作を支えた。中華料理店には、局員であるプロデューサーが2人と番組制作を請け負う制作会社の社長、2人のAD、そして山田がいる。プロデューサーらは、筆者の十数年前からの知り合いである。

 山田はフリーのディレクターとしてこの番組に関わった。制作会社の社長から委託を受けた。この会社の正社員であるディレクターは数人いるが、いずれも他の番組制作に関わる。いわば、「穴埋め要員」として抜擢された。

 その後も、山田は恥じらうことなく学歴の話を持ち出す。酔いも回っているのか、十八番の「偏差値ランキングによるディレクター査定」が始まる。

 「君たちの制作会社の先輩ディレクターのあの男は、中央大出身だろう?明治か?だから、新卒のとき局員になれなかった。局員は、東大がスタンダードだから、ね」

 「君は早稲田か……。このまま、制作会社のD(ディレクターを意味する)で終わるかな?」

 「君たちの会社のディレクターを辞めて、大阪のイベント会社に転職したあの人はねぇ、同志社だった……」

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吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


日本に巣食う「学歴病」の正体

 今の日本には、「学歴」を基に個人を評価することが「時代遅れ」という風潮がある。しかし、表には出にくくなっても、他者の学歴に対する興味や差別意識、自分の学歴に対する優越感、劣等感などは、今も昔も変わらずに人々の中に根付いている。

たとえば日本企業の中には、採用において人事が学生に学歴を聞かない、社員の配属、人事評価、昇格、あるいは左遷や降格に際しては仕事における個人の能力や成果のみを参考にする、という考え方が広まっている。しかし実際には、学歴によって選別しているとしか思えない不当な人事はまだまだ多く、学閥のようなコミュニティもいまだに根強く存在する。学歴が表向きに語られなくなったことで、「何を基準に人を判断すればいいのか」「自分は何を基準に判断されているのか」がわかりずらくなり、戸惑いも生まれている。こうした状況は、時として、人間関係における閉塞感やトラブルを招くこともある。

 これまでの取材で筆者は、学歴に関する実に多くのビジネスパーソンの悲喜こもごもを見て来た。学歴に翻弄される彼らの姿は、まるで「学歴病」に憑りつかれているようだった。学歴は「古くて新しい問題」なのだ。本連載では、そうした「学歴病」の正体を検証しながら、これからの時代に我々が意識すべき価値基準の在り方を考える。

「日本に巣食う「学歴病」の正体」

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