日本銀行は10月5日、量的緩和とリスク資産の買い入れなど信用緩和双方を含む「包括緩和」に踏み切った。一見すると、さまざまなメニューが揃えられた思い切った策だ。しかし、中身を検証すると実効性の乏しさが浮かび上がる。これでは緩和競争においてFRBと太刀打ちできない。円高基調の転換は望むべくもない。

 日米金融緩和競争の幕が切って落とされた。

 日本銀行は10月5日、(1)政策金利である翌日物金利の誘導目標の0.1%から0~0.1%への引き下げ、(2)消費者物価上昇率が1%程度になることが展望されるまでの金融緩和継続、(3)国債、社債、CP(コマーシャルペーパー)、ETF(指数連動型投資信託)、REIT(不動産投資信託)などを買い入れるための5兆円規模の基金創設を打ち出した。円高阻止、デフレ脱却がその狙いであることは言うまでもない。

 市場関係者の当初予想は国債買い入れの増額程度だったから、ここまでずらりとメニューを並べてきたことは驚きだった。10月8日からのG7(先進国財務相・中央銀行総裁会議)や景気対策のための補正予算審議を控え、日銀への金融緩和圧力は高まっていた。

 加えて、11月初旬にFRB(米連邦準備制度理事会)が大規模な追加量的緩和に踏み切るとの予測もあって、日銀は“サプライズカード”を切らざるをえなかった。

 白川方明・日銀総裁は、国債買い入れなどの量的緩和と社債、CP、ETFの買い入れなどの信用緩和双方を含むことから今回の緩和策を「包括緩和」と命名した。

ゼロ金利復活はない
長期金利への影響も小

 しかし、為替市場の反応は冷淡だった。5日の緩和策の発表後、一時は円安に振れたものの、その後円は反発し、9月15日の介入前以来の82円台を付けた。

 それは、メニューだけは多彩だが、「包括緩和」の内実が現状追認ないしは、新施策でも大きな効果が見込めないものだからだ。

 たとえば、誘導目標引き下げにしても、実態は変わらないと見られる。金融機関が日銀に預ける当座預金には現在、0.1%の金利が付いている。これは「包括緩和」後も変更はない。つまり、銀行間市場において0.1%未満で資金を他の金融機関に貸すぐらいなら、当座預金に預けたほうがよい。