ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
櫻井よしこの「論戦」――凛たる国家へ 日本よ、決意せよ
【第7回】 2016年8月16日
著者・コラム紹介バックナンバー
櫻井よしこ [ジャーナリスト]

中国が仕掛ける「武器なき戦い」、それに加担する外務省の驚くべきやり口

1
nextpage

中国の膨張は、軍事的な面にとどまらず、歴史や情報に関わる部分にも及んでいる。このような「武器なき戦い」を制するために、日本にいま、何が足りないのか?人気ジャーナリスト・櫻井よしこ氏の最新刊『凛たる国家へ 日本よ、決意せよ』の中から紹介していこう。

「正定事件」に見る武器なき戦い

櫻井よしこ(さくらい・よしこ)ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。
1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。
著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「民意」の嘘』(花田紀凱氏との共著、産経新聞出版)、『日本の未来』(新潮社)など多数。

2016年2月20日に発売された高橋史朗氏の近著『「日本を解体する」戦争プロパガンダの現在』(宝島社)に非常に恐ろしいことが書かれている。中国が日本に歴史戦争を仕掛けているのは周知だが、その戦場がバチカンを巻き込んで広がりつつあるというのだ。

話は1937(昭和12)年1月9日にさかのぼる。中国河北省の正定にカトリックのミッションの支部があった。1937年といえば12月に日本軍が南京に入城した年である。中国は、日本が「南京大虐殺」を起こしたと主張し、研究者から見れば根拠を欠く不条理な非難を日本に浴びせ続けている。

その同じ年に日本軍が「正定事件」を起こしたと、中国とオランダが共同でローマカトリックの総本山、バチカンに次のように訴えている。

カトリックミッションに日本軍が乱入、女性200人を要求し、宣教師たちが断ると、9人の宣教師を誘拐し殺害した、というのである。

中国とオランダは、女性たちを守ろうとした尊い行為を顕彰し、犠牲となった9人を悼み、彼らの「列福」をバチカンに申請したそうだ。「列福」とは「徳と聖性が認められて聖人に次ぐ福者に昇格させること」だ。実現すればカトリックの世界で9人の宣教師は大層尊い存在となる。ローマ法王は、列福された人々を高い徳を備えた聖なる人物として全世界のカトリック教徒に宣告する。

 「そうなれば、福者の栄光と、日本軍の悪辣な行為が対比され、日本国を悪者として際立たせる効果が生まれます。空恐ろしい企みを中国は着々と実行しているのです」と、高橋氏は警告する。

実は、この情報を最初に日本にもたらしたのはスイス・ジュネーブの国際機関で働く白石千尋氏である。彼女は中国の動きに危機感を覚え、当時、正定のカトリックミッションを庇護し、事件の調査、および事後処理を担当したフランスの資料を調べた。

白石氏は6人の情報源の証言で報告書が作成されたことを突き止めた。6人のうち2人がオランダ人の神父、2人が中国人だ。しかし4人は女性の要求については一切触れていない。

他方、ヴィエンヌという司祭は「強盗は8人で中国人女子修道院に侵入したが、一切暴行は加えず修道院を出て、難民らから強奪した」と証言している。

犯人らは必ずしも日本人ではなく金目当てで、貧しい中国人修道女には興味を示さなかったと解釈されている。

女性の要求について証言したのはスウェーデン人のヒルという神父だ。彼はミッションの管理人リー・チャイという神父から聞いた話として、「日本兵がやってきて女性を要求」「外国人宣教師の一人が断固拒否」すると、「一旦去って、夜になって戻ってきて宣教師たちを誘拐し、後に殺害した」と語っている。

だが、ヒル証言はあくまでも伝聞である。加えてヒル証言には「200人」という数字は一切出てこない。

フランス当局は3ヵ月後「これが可能な限り集めた情報のすべてである。これ以上真相について語ることはおそらく不可能」と報告した。高橋氏が語る。

 「つまり、女性200人を要求したというのは完全な捏造と見ていいと思います。日本としてはフランス政府の資料を精査して、バチカンに詳しく報告すべきです。資料の中には『現場にはダムダム弾10発と中国刀一振りが残されていた』との証言もあります。ダムダム弾は日本軍は使っていません。またチャイ神父は『強盗の中に流暢な中国語を話す男がいた』とも証言しています。別のフランス人も、数人が『正しい中国語を喋っていた』と証言しています」

日本政府は情報の収集、分析、対策を急ぎ強化すべきだ。中国の底知れぬ謀略との戦いは、武器なき戦いである。果敢に反論し、こちら側の事実を広報しなければ、日本は敗北する。

(『週刊ダイヤモンド』2016年2月20日号の記事に加筆修正)

1
nextpage
スペシャル・インフォメーションPR
ダイヤモンド・オンライン 関連記事
自分の時間を取り戻そう

自分の時間を取り戻そう

ちきりん 著

定価(税込):本体1,500円+税   発行年月:2016年11月

<内容紹介>
生産性は、論理的思考と同じように、単なるスキルに止まらず価値観や判断軸ともなる重要なもの。しかし日本のホワイトカラー業務では無視され続け、それが意味のない長時間労働と日本経済低迷の一因となっています。そうした状況を打開するため、超人気ブロガーが生産性の重要性と上げ方を多数の事例とともに解説します。

本を購入する
著者セミナー・予定
(POSデータ調べ、11/20~11/26)


注目のトピックスPR


櫻井よしこ [ジャーナリスト]

(さくらい・よしこ)ベトナム生まれ。ハワイ州立大学歴史学部卒業。「クリスチャン・サイエンス・モニター」紙東京支局員、アジア新聞財団「DEPTH NEWS」記者、同東京支局長、日本テレビ・ニュースキャスターを経て、現在はフリー・ジャーナリスト。1995年に『エイズ犯罪 血友病患者の悲劇』(中公文庫)で第26回大宅壮一ノンフィクション賞、1998年には『日本の危機』(新潮文庫)などで第46回菊池寛賞を受賞。2007年「国家基本問題研究所」を設立し理事長に就任。2011年、日本再生へ向けた精力的な言論活動が高く評価され、第26回正論大賞受賞。2011年、民間憲法臨調代表に就任。 著書に『論戦』シリーズ(ダイヤモンド社)、『「正義」の嘘』(花田紀凱氏との共著)『日本人のための憲法改正Q&A』(以上、産経新聞出版)、『日本の敵』(新潮社)、『日本人に生まれて良かった』(悟空出版)など多数。


櫻井よしこの「論戦」――凛たる国家へ 日本よ、決意せよ

混迷する米大統領選、南シナ海で暴走する中国、イギリスのEU離脱…いま、世界は「自国第一主義」へと傾いている。日本はもはや他国を頼りにはしていられない。そんな混沌とした時代だからこそ、いよいよ日本には「決意」が求められている。国際政治や世界情勢にさほど関心のない人でも、「世の中の秩序が急速に変わりはじめていること」には気づきつつあるのではないだろうか? テレビ・新聞では報じられない独自の切り口で、世間にはびこる「嘘」を人気ジャーナリストが一刀両断!

「櫻井よしこの「論戦」――凛たる国家へ 日本よ、決意せよ」

⇒バックナンバー一覧