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岸博幸のクリエイティブ国富論

電子書籍の本質は本当に正しく理解されているのか

~週刊ダイヤモンド特集「電子書籍入門」を読んで感じた不安

岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]
【第110回】 2010年10月15日
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 今週号の週刊ダイヤモンドは「電子書籍入門」という特集を大々的に展開しています。その充実した中身は評価できますが、同時に気になる点もいくつかありましたので、今回はその解説をしたいと思います。

出版文化はどうなるのか

 この特集を一読して最も強く感じたことは、電子書籍の普及が出版文化にどのような影響を及ぼすのか、という大事な論点についての言及がないということです。入門者向けの解説ですのでやむを得ない面もありますが、電子書籍を考える場合、この論点は避けて通れないのではないでしょうか。

 出版文化の担い手は著者だけではありません。出版社は、企画や編集、校正などの様々な付加価値を加えることによって、単なる“著作物”を“出版物”へと昇華させています。さらに、日本の書籍や雑誌のつくりは、外国に比べて格段に優れていますが、それは、装丁や判組みなどがしっかりと行なわれているからであり、こうした面での印刷会社の付加価値は重要です。

 加えて、最近は大幅に減少しているとは言え、全国に存在する書店の数の多さ、そこに配本される取次の存在が、書店の店頭で“これまでまったく関心なかった新しい分野の知識や文化に出会える”という機能を国民に提供してきました。

 このように、出版文化というのは著者以外に様々なプレイヤーが出版のエコシステムに介在することを通じて維持、発展してきた側面があります。

 詳細は省きますが、過去10年のネットの普及に伴い、世界中でネットに触れた文化やジャーナリズムの衰退が起きています。その典型例は音楽であり新聞です。文化やジャーナリズムは社会のインフラであり、ソフトパワーの源であることを考えると、本来その衰退は憂うべき事態であり、社会としてそれにどう対応するかを考えなくてはなりません。

 そうした事実を考えると、電子書籍の普及を通じて出版文化がネットに触れることによって、出版文化がどうなるのかというのは、非常に重要な論点になるのではないでしょうか。

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岸 博幸 [慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授]

1986年通商産業省(現経済産業省)入省。1992年コロンビア大学ビジネススクールでMBAを取得後、通産省に復職。内閣官房IT担当室などを経て竹中平蔵大臣の秘書官に就任。不良債権処理、郵政民営化、通信・放送改革など構造改革の立案・実行に関わる。2004年から慶応大学助教授を兼任。2006年、経産省退職。2007年から現職。現在はエイベックス・マーケティング株式会社取締役、エイベックス・グループ・ホールディングス株式会社顧問も務める。

 


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