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宿輪ゼミLIVE 経済・金融の「どうして」を博士がとことん解説

株価上昇を狙う日銀の政策に問題はないか

宿輪純一 [経済学博士・エコノミスト]
【第41回】 2016年8月3日
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日銀が行うETF購入の増額に問題は?

 7月28~29日に開催された日本銀行の金融政策決定会合では、まず前回の本稿で指摘したように、マイナス金利の拡大は実行しないという賢明な判断をして、銀行を主とする金融機関のさらなる経営的な危機は回避された。

 予想された主たる対応案は、(1)マイナス金利の拡大、(2)国債買入枠の増額、(3)ETF(上場投資信託)の買い入れ増額の3つであったが、結果として(3)のETFの買い入れ増額のみを実施することになった。ETF、つまり株の購入を増額するということで、もはや金融緩和とは言えなくなっている。世界にこのような形で株式を購入している中央銀行はない。

 この状況はアベノミクスの金看板であった金融緩和政策を中心とした仕組みが限界に来ていることを示している。安倍首相は常に「アベノミクスは道半ば」を強調している。このような状況下、状況がギリギリになればなるほど、アベノミクスの本当の目的が見えてくる。それは主として「株高誘導」であり、その先にあるのは景気に刺激を与える「資産効果」である。

 黒田総裁は「必要なときはやる」といった発言をいつもしており、4月、6月、そして7月も、マイナス金利の拡大などの金融緩和を予想する向きもあり、その結果を見て株式市場や円為替相場は失望するといった展開が繰り返されてきた。

マイナス金利拡大は無理筋
国債購入額増にはやりすぎ感

 さて、最初に挙げた日銀の対応案のうち、(1)マイナス金利の拡大については、前回の連載で詳しく説明したが、これ以上のマイナス金利の拡大は、前回と同じように、国債金利を主たる収益源としている銀行の経営がさらに悪化し、株価全体も下落することとなるため、可能性は極めて低かった。しかも、副作用として国債金利までも低下し金融機関の収益は悪化し、株価全体の下落をもたらした。これ以上のマイナス金利導入は、銀行どころか株式市場の状況から考えても無理なのである。

 逆に、米国の中央銀行FRBは銀行にとって必要なのは正常な金利(イールドカーブ)の状態であることを認識しており、金利を上げていく(戻していく)ことを「正常化」と呼んでいる。経済危機の時、銀行の経営破綻が起きると、経済全体に与えるダメージは連鎖的に格段に大きくなる。それほど銀行の安定経営は経済にとって重要なのである。

 実際のマイナス金利政策は、言われているほど効果が大きくない。それは対象金額が少ないからである。実は、民間金融機関が日本銀行におカネを預ける「日銀当座預金」は(a)プラス金利適用部分の「基礎残高」、(b)ゼロ金利適用部分の「マクロ加算残高」と、今回新設する(c)マイナス金利適用部分の「政策金利残高」に分かれている(用語は日銀が使用しているもの)。

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宿輪純一[経済学博士・エコノミスト]

しゅくわ・じゅんいち
 博士(経済学)・エコノミスト。帝京大学経済学部経済学科教授。慶應義塾大学経済学部非常勤講師(国際金融論)も兼務。1963年、東京生まれ。麻布高校・慶應義塾大学経済学部卒業後、87年富士銀行(新橋支店)に入行。国際資金為替部、海外勤務等。98年三和銀行に移籍。企画部等勤務。2002年合併でUFJ銀行・UFJホールディングス。経営企画部、国際企画部等勤務、06年合併で三菱東京UFJ銀行。企画部経済調査室等勤務、15年3月退職。4月より現職。兼務で03年から東京大学大学院、早稲田大学、清華大学大学院(北京)等で教鞭。財務省・金融庁・経済産業省・外務省等の経済・金融関係委員会にも参加。06年よりボランティアによる公開講義「宿輪ゼミ」を主催し、4月で10周年、開催は200回を超え、会員は“1万人”を超えた。映画評論家としても活躍中。主な著書には、日本経済新聞社から(新刊)『通貨経済学入門(第2版)』〈15年2月刊〉、『アジア金融システムの経済学』など、東洋経済新報社から『決済インフラ入門』〈15年12月刊〉、『金融が支える日本経済』(共著)〈15年6月刊〉、『円安vs.円高―どちらの道を選択すべきか(第2版)』(共著)、『ローマの休日とユーロの謎―シネマ経済学入門』、『決済システムのすべて(第3版)』(共著)、『証券決済システムのすべて(第2版)』(共著)など がある。
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「円安は日本にとってよいことなんでしょうか?」「日本の財政再建はどうして進まないのでしょうか」。社会人から学生、主婦まで1万人以上のメンバーを持つ「宿輪ゼミ」では、経済・金融の素朴な質問に。宿輪純一先生が、やさしく、ていねいに、その本質を事例をまじえながら講義しています。この連載は、宿輪ゼミのエッセンスを再現し、世界経済の動きや日本経済の課題に関わる一番ホットなトピックをわかりやすく解説します。

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