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高橋洋一の俗論を撃つ!

経済対策「20兆円」の規模は適正か

高橋洋一 [嘉悦大学教授]
【第149回】 2016年7月28日
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マスコミもきちんと区別できていない
「ヘリコプターマネー」の種類

 前回の本コラムでは、「ヘリコプターマネー」について書いた。ヘリコプターマネーとは、財政支出を国債発行で賄い、同時に中央銀行がその国債の買い入れることである。この財政政策と金融政策の合わせ技の手法は、money-finance、monetizationと英語では言われる。

 しばしば補給金や減税という財政政策面に目を奪われて、この手法の意味を勘違いする。識者の中には、地域振興券の配布もヘリコプターマネーという人もいるが、これは普通の財政政策であり、ヘリコプターマネーではない。ヘリコプターマネーでは、中央銀行が国債を買い入れると通貨が発行されることにその本質がある。

 なお、財政政策では、給付金や減税などのように広い範囲を対象とするものもあるが、特定地域、特定事業のように狙いを絞って行うことも多い。後者であっても、有効需要増加という意味では、前者と同じであるので、その財源調達を事実上通貨発行によるのであれば、ヘリコプターマネーの一種になる。

 ただし、中央銀行の国債買い入れには、2種類ある。この区別は法律面であり、経済政策としての区別はほとんどない。一つは既発国債を買い入れる場合であり、これは現行法にはまったく抵触しない。もう一つは新発国債を引き受ける場合である。両者の経済的な効果は同じであるが、後者は法的に財政法による国会議決を要し、無条件ではできない。

 つまり、新発国債の日銀に引き受けによるヘリコプターマネー1と、既発国債の日銀買入によるヘリコプターマネー2がある。ヘリコプターマネー2は今の量的緩和であり、問題なく行われるが、ヘリコプターマネー1は実施のハードルが高い。

 このため、ヘリコプターマネーがヘリコプターマネー1を意味する場合には、政府関係者であれば、発言を慎重に行い否定的に言う。

 つまり、黒田総裁や菅官房長官がヘリコプターマネーを否定的に言うのは、ヘリコプターマネー1のことである。一方、ヘリコプターマネー2はなんの制約もなく、今でも行われている。

 今のマスコミ報道では、この両者を区別して書いているモノは皆無であり、それがこの議論の混乱を呼んでいる。この混乱は、市場関係者からみれば市場の夢、期待にもなるので、市場が沸いているともいえる。もともと市場関係者は言葉には厳密でなく、雰囲気を味わう人が多いので、ヘリコプターマネーを筆者のように厳密に扱うのは無粋ともいえるのだが。

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高橋洋一[嘉悦大学教授]

1955年、東京都に生まれる。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官などを歴任したあと、2006年から内閣参事官(官邸・総理補佐官補)。2008年退官。金融庁顧問。2009年政策工房を設立し会長。2010年嘉悦大学教授。主要著書に『財投改革の経済学』(東洋経済新報社)、『さらば財務省』(講談社)など。

 


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