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経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

「ヘリコプターマネー」リスク考
道で拾った30万円をあなたは使うか?

熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]
【第213回】 2016年7月29日
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ただでお金をもらえば必ずツケが回ってくる。ヘリコプターマネーとはまさにそれだ

 思考実験をしたい。散歩していて、道で30万円のお札が入った封筒を拾ったとしよう。あなたはそのお金をどうするか。

 模範回答は、きっと落とし主が困っているだろうから警察に届ける、という対応である。しかし、それでは経済問題の実験として面白くない。そこで、(1)その30万円を使って欲しいものを買う。もしくは、(2)そんなうまい話があるはずがないので無視する、という2つの選択肢から選んでほしい。

 実は、合理的な行動を前提にして経済モデルを仮想すると、(1)が正解とはならない。(2)30万円を道で見つけても無視して通り過ぎるというのが正解になるらしい。これを「ノーフリーランチ原則」(ただ飯などはない)と呼ぶ。

 ただで得られる30万円などは世の中に存在するはずがない。ならば自分の知らない“からくり”があって、30万円を拾った後、相応の出費を強いられると覚悟をしておく方が良い。自分は、そんな面倒なことに巻き込まれるのは嫌だから、30万円は拾わない。これが合理的な推論というわけである。

空から紙幣を撒けばインフレに?
ヘリコプターマネーの実験

 この考えを、ヘリコプターマネーの考察に応用してみよう。ヘリコプターマネーとは、空から国民に紙幣を散布すれば、人為的にインフレを起こせるだろうという説である。国民に1人当たり30万円の札束を配れば、皆がその30万円を使ってくれて、上記(1)のように欲しいものを買うという想定である。もっと実務的に言えば、満期のない永久国債というものを政府が発行し、これを日銀が直接引き受けをする。返済義務がないので、通常の政府債務の増加とは区別される。

 なお、ヘリコプターマネーの容認論者が、財政規律を厳格に守れる仕組みが設けられさえすれば、中央銀行の直接引き受けを通じて、政府が歳出拡大しても支障ないとする。

 これに対して、筆者などは、政府がこの便利な仕組みを何度も使わずに済ませられるであろうかと疑問を抱く。筆者は、国民に増税を求めずに、財源を日銀に求めることが可能になれば、必ずや財政の節度が失われると考える。子どもが働かないで親から小遣いを無制限にもらえるとすれば、勤労意欲は全く湧かなくなるのと同じである。

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熊野英生 [第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト]

くまの・ひでお/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト。 山口県出身。1990年横浜国立大学経済学部卒。90年日本銀行入行。2000年より第一生命経済研究所に勤務。主な著書に『バブルは別の顔をしてやってくる』(日本経済新聞出版社)など。


経済分析の哲人が斬る!市場トピックの深層

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