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戦略は歴史から学べ
【番外編第5回】 2016年8月8日
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鈴木 博毅

「日本一出世した男」豊臣秀吉から学ぶ
その他大勢から抜け出す調略法

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百姓から天下人になった豊臣秀吉。秀吉は、純粋な武力で勝利をつかむより、味方をどれだけ増やすか、全体の趨勢を左右する重要な人物を、どう自陣営に引き込むことができるかの調略に秀でていた。技術だけでは勝てない時代にこそ、いかに戦わずに勝つかを考えた秀吉の戦略が役に立つ!好評発売中の『戦略は歴史から学べ』の著者が、新たに書き下ろす「番外編」シリーズ第5回。

18歳で信長に仕え、29歳で家臣の一人と認められる

 日本の天下人として知られる豊臣秀吉は、1537年生まれ。(のちに秀吉が臣従する織田信長は1534年生誕)。農民の出身ながら、一代で関白にまで登りつめた秀吉は「日本一出世した男」と言われることもあります。

 秀吉の出自はわかっていないことが多く、父は下級武士だったとも、ただの百姓とする説もあります。書籍『秀吉の天下統一戦争』では、同時代を生きた宣教師のルイス・フロイスによる『日本史』の記述、(秀吉は)「貧しい百姓の倅として生まれた。若い頃には山で薪を刈り、それを売って生計を立てていた」を紹介しています。

 秀吉の名前が史料に出てくるのは、1565年、彼が29歳のときです。信長が対立していた斉藤龍興の配下の武将、坪内利定を信長方に寝返らせることに秀吉が成功したときのこと。信長の副状(そえじょう)を出しており、署名は木下藤吉郎秀吉でした。

 書籍『秀吉の天下統一戦争』には、秀吉の着用したことが確実な鎧などから身長を154センチ、体つきも華奢だったとしています。しかし、身長180センチ、「槍の又左」の異名をとった前田利家などより出世をしている理由を次のように述べています。

 「戦わないで敵を味方にしてしまう調略も立派な兵法として認識されていた。秀吉はこの調略を得意とし、その説得と誘惑の特技をもつともいうべき秀吉の才能に目をつけ、有効に活用したのが信長だったというわけである」(書籍『秀吉の天下統一戦争』)

秀吉は勇猛な人物か、奸計に優れた策士か

 この「敵の重要人物を寝返らせる」ことは、以降の秀吉の活躍で欠かすことができない重要な武器になっていきます。信長の配下として活躍した時代も、本能寺の変から先の独立時代も、この「敵の一部を寝返らせる」ことは、秀吉を勝ち続けさせた方法だと言えるのです。

 しかし、秀吉が謀略だけが得意な、線の細い人物だったかと言えば、そんなことはありません。本能寺の変(1582年)の2年後の1584年に、先の宣教師ルイス・フロイスが本国に送った報告書には、次のように書かれています。

 「信長の家臣中甚だ勇猛で、戦争に熟練な人・羽柴筑前殿」

 「彼は畏怖せられ、また、一度決心したことは必ずこれを成し遂ぐるのが例である」

 秀吉が、信長遺臣の1人、柴田勝家を滅ぼした1586年頃の報告書には、次のように語られています。

 「富みにおいては、日本の金銀及び貴重なる物は皆掌中にあり、彼は非常に畏敬せられ、諸侯の服従を受けている」(いずれも『豊臣秀吉のすべて』より)

 フロイスは、秀吉を信長よりもさらに独善的な人物だと判断していました。秀吉は権勢を極めて、やがて諸侯を見下すほどの地位を手に入れますが、フロイスの報告書に描かれている秀吉は、小柄ながらも鋼の信念を持ち、財力をも力にして戦争に精通した武将というイメージです。

信長家臣時代から、一貫した秀吉の戦い方

 秀吉は、初期の斉藤氏との戦いで「敵を寝返らせることで」武勲を挙げましたが、信長が苦戦をした浅井・朝倉の連合軍との戦いでも、敵である堀・樋口らの武将に内通を約束させています。このとき、秀吉の寝返り工作で活躍したのが軍師の竹中重治です。

 のちに中国地方の毛利軍対策をする方面軍を秀吉が率いたときは、播磨の大勢力だった小寺氏の家臣、黒田官兵衛にも声をかけ、官兵衛を通じて小寺氏を信長の味方に付けることに成功しています。

 秀吉の強さは、戦う前の寝返り工作にあるのですが、同様に「戦わずに勝つ」ために兵糧攻めや水攻めも積極的に行っています。三木の干し殺し、鳥取の渇殺し、備中高松城(岡山県)の水攻めなどが有名です。

 信長死後、後継者争いで激突した柴田勝家(信長軍で北陸方面を担当)との戦いでは、秀吉は勝家と対峙していた上杉景勝と同盟を結ぶことに成功し、運命を決めた賤ヶ岳の戦いでは、柴田軍の主力の1つだった前田利家の部隊を戦線離脱させています。

 前田利家は秀吉とも通じていたとされ、利家が戦線離脱したことで、柴田側の金森隊、不破隊も戦線離脱をおこない、勝家軍の敗北を決定づけることになりました。

 秀吉は、敵の内部分裂を誘う調略の力を信長から高く評価されていました。得意の戦い方で若い頃から成功を収めた秀吉は、以降も自らの武器を最大限活かしたのです。

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