生成AIの台頭により、データ処理量は桁違いに跳ね上がった。それに伴い、データセンター(DC)が直面している最大の課題が「熱」である。AI向けの高性能なプロセッサーは膨大な電力を消費し、熱密度はかつてとは比較にならないレベルに達している。

「ラック1台当たりの熱密度は10年前に比べ、約100倍にまで上がりました。もはや水冷は大前提となり、ここ半年間で認識が大きく変わりました」

東京大学大学院情報理工学系研究科教授の江崎浩氏は、現状をそう断言する。ほんの数年前まで「データセンターに水を入れるのは危ない」と忌避していた空気感は、完全に過去のものとなっている。

「米NVIDIAの製品を中心に、水でなければ冷やせない状況になってしまったのです。熱密度のオーダーが文字通り『桁違い』に上がってしまった。原子力発電所のペレット温度に迫る勢いで、昔ながらの牧歌的な空調を造っていた人たちでは到底対応できないレベルに達しています」

最新鋭の環境では水冷でさえも「限界」が見える現実

では、具体的にDCの冷却システムはどう進化しているのか。驚くべきことに、単に水を循環させるだけの水冷ですら、「最新鋭の環境」ではすでに限界が見え始めているという。

「今、ターゲットに入ってきているのは『2層式』の冷却です。水に熱を吸わせて移動させるだけでなく、水を気体にして『気化熱』で熱を奪う。昔、理科で習った、汗をかいて扇風機に当たると涼しいのと同じ原理です」

サーバーを非導電性の液体に丸ごと浸す「液浸冷却」も注目されたが、江崎氏は「液浸では次世代のプロセッサー製品などの熱密度に対応するのは厳しくなりつつあります」と指摘する。

今や熱力学の専門家が参入し、空母やロケットで使われるような極めて高密度の熱処理技術がDCに求められているのだ。

さらに、冷却装置の構造や現場の作業環境も劇的な変化を遂げている。

「これだけ膨大な数のサーバーを、人間がレンチを使って手作業で設置・調整するなど、やっていられません。そこで導入されているのがモジュール型です。例えば、(モータースポーツの)F1のピットインでの給油のように、ものすごいスピードと水流をコントロールしつつ、パチンとワンタッチで脱着でき、液漏れもしないテクノロジーが持ち込まれています」

巨大な建物をゼロから建設し、複雑な配管を敷き詰めるのではなく、あらかじめ工場で組み立てられたモジュールを現場で連結していく。ビッグテック企業はいち早くこの手法を採用しており、もはや「設備の施工方法も旧来のノウハウや知識では追い付けない世界になった」(江崎氏)という。

冷却方式の進化と並行して、DCのアーキテクチャーそのものを根底から覆す問題が浮上している。それが「光の遅さ」だ。通信速度は極めて速いと思われがちだが、AIの圧倒的な処理スピードの前では、光ファイバーを通る光の速度すら遅延の原因になる。

劇的に変化する冷却技術。専門家がひも解く「水冷の先」とAIデータセンター「熱問題」の核心えさき・ひろし/1987年九州大学工学部電子工学科修士課程了。同年4月東芝入社。米ベルコア社、米コロンビア大学客員研究員などを経て、98年10月より東京大学大型計算機センター助教授。2001年4月より東京大学大学院情報理工学系研究科助教授。05年4月より現職。WIDEプロジェクト代表。MPLS JAPAN代表、IPv6普及・高度化推進協議会専務理事、JPNIC理事長、日本データセンター協会副理事長・運営委員会委員長、デジタル庁初代Chief Architect。工学博士(東京大学)。主な著書は『インターネット・バイ・デザイン:21世紀のスマートな社会・産業インフラの創造へ』(東京大学出版会)、『サイバーファースト インターネット遺伝子が創るデジタルとリアルの逆転経済』(インプレスR&D)など。

「今の半導体はナノセカンド(10億分の1秒)で動いています。この1クロックの間に、光はたった20cmしか進めません。つまり、技術進歩により許容される距離が短くなっているのです」

かつては、熱問題を回避するために処理を分散させる「スケールアウト」が主流だった。しかし、光の遅さが足かせとなり、遠くのサーバーと連携させることが難しくなった。そのため、物理的にサーバーを密集させる「スケールアップ」への回帰が起こっている。密集すれば当然、熱密度はさらに上がり、前述の2層式のような高度な冷却技術が必要になるという技術的パラダイムシフトが起きているのだ。

遅延が許されない世界は、今後の産業構造にも直結する。江崎氏は「ダークファブ(無人工場)」を例に挙げる。

「人間がいない工場では、ロボットは24時間、照明(ライト)なしで動けます。人間なら100msの遅延でも気になりませんが、時速300kmで動くような超高速ロボットをコンピューターが制御するには、100km離れたDCでは通信の遅延が大き過ぎる。どうしてもエッジ(現場の近く)にDCを置かざるを得ないのです」

「冷やす」という概念自体が変わりつつある

一方で、高熱化による副産物もある。「冷やす」という概念自体が変わりつつあるのだ。

「AIサーバーの冷却温度は40度での運用もアナウンスされています。もはや生ぬるいお湯であり、『冷やす』という感覚ではありません。また、温度が上がったことで排熱の再利用が容易になり、熱から冷たい空気をつくるという全く違う熱サイクルも生まれています。水の消費量も昔と比べて激減しており、『データセンターが来ると水がなくなる』というのは古い話です。その点、今後は地域住民の理解が得やすくなり、用地選定は容易になるかもしれません」と江崎氏は解説する。

冷却ソリューションは、激変に次ぐ激変を重ねており、昨日まで主流であった冷却方法が明日には使いものにならなくなってしまうほど、トレンドが様変わりしているのが実情だ。

新たにAIDCを設けるにせよ、既存のDCをAI化に対応して再構築するにせよ、刻一刻と変化する最新技術を柔軟に取り込めるようにしておく必要がありそうだ。