
『週刊ダイヤモンド』8月27日号の第1特集は、「勝者のAI戦略~人工知能の嘘ホント~」です。その中から、トヨタ自動車が本気でAI事業に参入し、外部から人材を招聘して結成した「ドリームチーム」の挑戦についてお送りします。
7月12日、トヨタ自動車の命運を握る男が、福島第1原子力発電所を訪れていた。トヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)のギル・プラット最高経営責任者(CEO)がその人だ。
前職は米国防高等研究計画局(DARPA)のプログラムマネジャーで、そのロボティクス分野への貢献度から“米国の至宝”とも呼ばれる人物である。
プラット氏は、DARPA時代に福島原発事故の教訓を生かそうと、災害救助用ロボットの国際競技大会を開いた実績がある。人がまったく近づけないような苛酷な環境下でも、どのようなロボットならば活躍できるのか──。プラット氏は研究テーマの一つとして掲げる、廃炉プロジェクトの視察へやって来たのだ。
昨秋より、トヨタが人工知能(AI)分野へ傾斜している。AIの研究開発拠点として米シリコンバレーにTRIを新設、2020年までに10億ドル(1000億円)を投資すると宣言したのだ。その後も、AI関連の協業・投資の案件が相次いでいる。
トヨタは本気である。投資規模もさることながら、シリコンバレーに集中するAI人材の獲得法にも長けている。現在、AI分野のトップ研究者は、AIに注力する企業の間で争奪戦になっており、AIに“地の利”のない新参者が採用をするのは容易ではない。
まず、米大学のAI研究の“ご三家”のうち、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スタンフォード大学の研究所と提携した。この2大学は、大学の実力の目安となる「(AI関連の)論文の被引用本数」が3000本以上と多い。
さらに、プラット氏の招聘により、彼の“友人”であるジェームズ・カフナー氏(グーグルロボティクス部門長)を研究メンバーとして迎えることができた。ちなみに、カフナー氏の夫人は日本人で、彼自身が親日派である。
プラット氏に近い製造業幹部によれば、「ギル(・プラット)さんは生粋の研究者。起業家みたいにギラギラしていない。みんなギルさんとだったら一緒に仕事をしたいと思っている」。