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一流の睡眠
【第10回】 2016年8月29日
著者・コラム紹介バックナンバー
裴英洙 [医師・MBA/ハイズ株式会社代表取締役社長]

デキる人は、「睡眠」もすごかった!
「MBA×コンサルタント」の医師が教える快眠戦略

本連載では、医師×MBA×経営者のトリプルホルダーで、ビジネスパーソン両方の視点と経験を併せ持つ著者が、発売まもなく増刷を重ねる大好評の新刊『一流の睡眠』から、現実的かつ具体的な「睡眠問題解決法」を教えます。

第10回は、「仕事がデキる人」と「睡眠」の関係を明かします。

絶対に失敗できない
「外科医」という仕事

 私はもともと、胸部外科という肺や心臓などの臓器を専門とした外科医で、これまで経験してきた手術回数は500回を超えています。

 外科医は、1日の中で複数の手術を担当することが珍しくないハードワーカーです。私自身も、最大で1日に4件の手術を担当したことがありました。

 手術室に運ばれてくる患者さんの病気や症状は、当然ながらすべて異なります。肺がん、縦隔腫瘍(胸の真ん中の臓器に出来る腫瘍)、気胸(肺に穴が空き、胸の中に空気が漏れる病気)、膿胸(胸の中に膿がたまる病気)など、さまざまです。

 病気に至った原因や背景も、まさに十人十色。ご高齢で手術に耐えられるかどうかギリギリの状態の方、過去に心筋梗塞の経験があって心臓が弱っている方、重度の喘息持ちで呼吸機能が悪い方、本当に多種多様です。

 そして、手術に失敗は許されません。常にベストパフォーマンスを求められるプレッシャーと戦い続けなければなりません。

重篤な患者の手術を
「朝イチ」に組み込む2つの理由

 そうした個別に状態の異なる患者さん一人ひとりをつぶさに観察しながら、慎重に手術の順番を決めていきます。そのような状況の中、最もリスクが高く、かつ難しい技術が求められる患者さんの手術は、必ず朝イチにスケジューリングしていました。

 その理由は、一刻を争う手術を優先する、という患者側の緊急度が1つ。そして、手術でベストパフォーマンスを出しやすい環境が朝である、という医師側の理由が1つです。

 午前中は体力が十分に残っており、脳の疲れもなく、アドレナリンが分泌されやすい時間帯です。夕方の別の手術で手を抜いているようなことは100%ないと断言しますが、それでも、朝イチのほうが心身ともにベストの状態で臨める可能性は高いのです。

 たとえば、肺がんの手術は一般的に3時間ほどかかります。術前の準備や麻酔等を入れれば、朝の8時から13時くらいまで立ちっぱなしで頭をフル回転させて集中しなければなりません。頭も体もベストな状態でなくては、とても乗り切れないのです。

 これは、何も医師に限ったことではありません。仕事の優先順位を考える際、最も重要な案件を可能な限りベストパフォーマンスを出せる時間帯に組み込むことができるかどうかは、結果を大きく左右します。そして、極端な「夜型」を自覚している人以外は、その時間帯は午前中である可能性が高いのです。

20分の「仮眠」が患者の生死を分ける

 本来あってはならないことですが、かつて私は、前日までの疲労が溜まって、手術前に「とてもベストパフォーマンスを出せそうもない」と感じた時もあります。

 そんな時、私は勇気を持って「20分ほど仮眠させてくれ」と周囲にお願いすることがありました。手術中に眠気に襲われて大事故を起こすより、ほんの少しの仮眠による回復効果を狙うのです。これは、20分の経過が患者の病状に与える影響を計算しつつ、自分のパフォーマンスを一定以上に保つための回復に充てる、というギリギリの判断です。

 医師のパフォーマンスの低下は、患者の「死」に直結します。できる限りのコンディションを整えることは、外科医として、執刀技術と同じくらい重要なファクターです。

 そしてこれも、医者に限ったことではありません。眠気を取り去り、午後のパフォーマンスを落とさないための「仮眠」は、結果を求められるビジネスパーソンにとっての大きな武器になります。

 仕事中の仮眠は不謹慎だという人がいますが、疲れた体と頭で仕事を続けてパフォーマンスを下げるほうが、プロとして不謹慎ではないでしょうか。少なくとも私は、「不謹慎」かどうかよりも、手術でパフォーマンスを保てるかどうかを優先していました。

 ちなみに、ビジネスパーソンがどのように仮眠をとるべきかについての現実策と、「20分の昼寝」が最強である科学的な理由については、拙著『一流の睡眠』に詳しく紹介していますので、是非お役立てください。

一流は「夜」から1日をスタートさせている

 ベストの状態で手術に臨むためには、前日の睡眠が非常に重要な役割を果たします。私は、よく言われる「一流のビジネスパーソン」を、「常に一定以上のパフォーマンスを出し続ける人」と定義していますが、外科医として「一流でなければならなかった」私が、睡眠に関して心がけていたことがあります。

 スペシャルな睡眠方法があるわけではありません。ただ、「前日の睡眠から手術は始まっている」と意識するだけです。「なんだ、それだけか」と思われるでしょうか。私の経験から言えば、ここに「一流」と「普通」を分ける大きな差があると思います。

「一流の睡眠」その基本的な考え方とは?


「平日の行動を、時刻に沿って順番に書いてください」

 そう言われた時、あなたはどう書きますか?

・7:00起床
・7:30朝食
・8:00出勤……

 こう書き始める人がほとんどでしょう。しかし、この時点ですでに普通のビジネスパーソンの考え方です。一流は、次のように書きます。

・23:00就寝
・7:00起床
・7:30朝食
・8:00出勤……

 多くの人は、就寝時間を1日の「ゴール」と考えています。でも、睡眠が翌日のコンディションに直結するならば、翌日のパフォーマンスを最大化するためには、就寝時間を「1日のスタート」とするべきです。

 シンプルですが、『一流の睡眠』で紹介している睡眠術の大前提となる、非常に重要な考え方です。「今日も1日疲れたからさあ寝よう」という受動的睡眠ではなく、「翌日のパフォーマンスを最高に持って行くためにさあ寝よう」という能動的睡眠へと意識を変えることが、一流のビジネスパーソンへの近道なのです。

 たとえば、仕事を終えて寝室に入り、「やっと自由な時間が訪れた」と思う気持ちはとてもよくわかります。ベッドで読書したり、スマホであてもなくYouTubeや好きなwebサイトを眺めている30分が、もっともリラックスできる時間だという人も多いでしょう。

 しかし、それを毎日繰り返していると、睡眠時間は確実に削られていきます。1日30分だとして、休日を除いた1ヵ月でおよそ10時間。寝る前の30分のネットサーフィンを1ヵ月やめるだけで、1日分の労働時間が確保できる計算です。

 このように、ほとんどの人が、睡眠を1日のスタートとは考えていないのが現状ではないでしょうか。結果を出すことが至上命題である一流のビジネスパーソンが、常に一定以上の成果を上げ、ライバルに差をつけるための効率的な手段として「睡眠習慣の改善」に取り組まない手はないはずだと、私は思っています。

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裴英洙 [医師・MBA/ハイズ株式会社代表取締役社長]

はい・えいしゅ/医師・医学博士、MBA。ハイズ株式会社代表取締役社長。

 

1972年奈良県生まれ。 金沢大学医学部卒業、金沢大学大学院医学研究科修了。金沢大学医学部卒業後、金沢大学第一外科(現・心肺・総合外科)に入局し、大学病院や基幹病院を中心に、主に胸部外科(肺がん、心臓病など)に従事し、日々手術に明け暮れる。その後、金沢大学大学院に入学し、外科病理学を専攻し医学博士を取得。さらに、病理専門医を取得し、市中病院にて病理医として病気の最終診断にかかわり、年間1万件以上の重大疾病の診断をこなす。

また、医師として働きつつ慶應義塾大学大学院経営管理研究科(慶應ビジネス・スクール)にて医療政策・病院経営の第一人者の田中滋教授に師事。同ビジネス・スクールを首席で修了。フランスグランゼコールESSEC大学院交換留学。ビジネス・スクール在学中に医療機関再生コンサルティング会社を設立。多数の医療機関の経営支援、ヘルスケア企業の医学アドバイザー業務などを行なっている。 現在も医師として臨床業務をこなしつつ、臨床の最前線からのニーズを医療機関経営に活かすハンズオン型支援を行なう。

著書に『10の仕事を1の力でミスなく回すトリアージ仕事術』『なぜ、一流の人は「疲れ」を翌日に持ち越さないのか』(ダイヤモンド社)、『医療職が部下を持ったら読む本』(日経BP社)などがある。

 


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