文京区と豊島区の区境に軒を接する目白台・雑司ヶ谷の住宅街は、文教地区にある住宅地の模範的な存在である。さまざまな学校や緑に十重二十重に周りを囲まれた高台は、世俗から切り離されたような閑静さを保っている。学ぶ環境のほど近くに、住む環境の好ましい形がかくれているのだ。

学校と緑に
隠された住宅地

 文京区目白台と豊島区雑司ヶ谷は、区こそ違えど境を接するひと続きの住宅地である。もとをただせば「目白台」は神田川から北側に見上げる台地の総称で、この一帯は地区としてこの名前を共有していると思っていい。そして、呼び名だけでなく、高級住宅地のたたずまいも、この街たちは持ち合っている。

 名前の知られ方に比べて、その内部を知る人は少ないのではないだろうか。この街の周りを、あるいは横断して、不忍通りや目白通り、音羽通りといった大きなストリートが走っている。だがその大通りからは、この街の正体はみえてこない。整った住宅街は大通りから横に入ってゆく…それもだいたいは坂をのぼって…そうした裏側に展開している。大通りに張りついてのみ存在している高層建築が、背後の家並みを隠す役割を果たしているのだ。内部は住居地域であり、高度地区でもある一戸建ゾーンなのである。

雑司ヶ谷にある「鬼子母神」
雑司ヶ谷にある「鬼子母神」。

 周辺にある学校や公共施設も、この地域を外の目から隔てている。日本女子大、雑司ヶ谷霊園、鬼子母神、東大付属病院、椿山荘といった、人の訪れる場所はあっても、これらを線でつないだその中にあるお屋敷町には、なかなか気が付かないのである。さらに広げれば、目白台・雑司ヶ谷は学習院、早稲田、お茶の水女子、という3つの大学を結ぶ、一辺が1kmほどの三角形の真ん中にある。これらの大学のカラーがまったく似てないのは、そのせいかもしれない。中心は学生が寄りつくような場所ではない。学生たちはそれぞれ見上げる高台の住宅地を、同じものとは思っていないだろう。

 高台の人たちは、朝には護国寺の駅の坂をくだってくる。池袋のターミナルにまで2駅。駅には近く、盛り場にはほどよく遠い。山手線内では望みがたいロケーションの住宅地から降りてくるのである。