消費インサイド
【第401回】 2017年1月12日 待兼 音二郎

ドローン宅配、日本でも実験開始!離島暮らしの救世主になるか

ゴルフ場内のデリバリーサービスで使用している、楽天のマルチコプター型ドローン「天空」を使って実証実験が行われた

ドローン宅配の
時代が到来!

 Amazonによるドローン宅配がついに英国でスタートした。昨年(2016年)12月7日、同社は英国東部ケンブリッジ市の配送センター近くの利用客2人に、ドローンで注文品を届けたと発表したのだ。最初の注文は「Amazon Fire TVとポップコーン1袋」で、クリック注文から13分で届いたという。同社は30分以内の配達を目標にしており、現状で運べる荷物は、重量5ポンド(約2.27kg)までだ。

 一方、米国でもセブン-イレブンが、すでにドローン配送をスタートさせている。米国西部ネバダ州レノの店舗から近隣住民に注文品を配達するというもので、昨年7月に初飛行を実施し、11月から試験配達サービスを開始。12月下旬時点で77回の配送を行った。ただし米国では連邦航空局(FAA)の規制で視界外飛行ができないため、同社では複数のパイロットを店舗に配置して有視界操縦でドローンを飛ばしている。

 さらにニュージーランドでも、昨年11月16日に宅配ピザの大手ドミノ・ピザがドローンによる初配達を行った。北島の北部にあるオークランドの郊外で、5分に満たない飛行後に、「チキンとクランベリーのピザ」を注文客の裏庭に届けたという。

 このように、昨年末には先進諸国でドローン宅配の時代がいよいよ幕を開けた。ネット注文の小口急配やピザ宅配は、いずれも速配が求められる。こうしたニーズに応えようとすると、混載便によるコスト削減が難しいのが実情だ。そのため、操縦者なしの無人ドローン配達が実現すれば、業者にとって配送人件費の大幅な削減が期待できる。

 そして日本でも昨年、国家戦略特区に指定された千葉市(幕張新都心)、福岡市(能古島)、愛媛県今治市(大三島)、そして徳島県選定ドローン特区の那賀町などで、実証実験が相次いで実施された。

 日本は国土の7割が山林で、瀬戸内海や長崎県、南西諸島を中心に小さな有人島も多いことから、無人ドローン宅配に対しては過疎地での物流コスト削減という観点からの期待が他国以上に大きくなっている。

 山奥の集落までくねくね道を登るのに比べて、ドローンなら直線距離に近い経路で飛行できるし、橋のかかっていない島に届ける場合にも、海上を飛ぶことで距離と時間の短縮が期待できるからだ。ちなみに実証実験が行われたのは、幕張新都心を除けば、いずれも島嶼や山間部であり、こうした期待に合致している。

 宅配便の荷物1つあたりのトラックの走行距離は、都市部では約0.2kmであるのに対して過疎地域では約1.2kmと都市部の6倍にもなっている(国交省資料)。地域の営業支店からの最終的な配送の一部を無人ドローンに委ねられれば、ドライバーの走行距離が短縮され、配送コストと時間の削減にも結びつけられる。

今治市島嶼部の
物流事情を見てみると…

 実証実験対象地の中で、とりわけ興味深いのが今治市だ。なぜなら市域に大小様々な有人島があり、島嶼部での物流事情改善という観点で、島ごとの事情の違いを比較しやすいからだ。

 実証実験は昨年10月26日に、エネルギア・コミュニケーションズ社が楽天の協力のもとで実施主体となり、瀬戸内海に浮かぶ大三島の上浦町盛地区で行われた。住民がスマートフォンからミニトマトなどの野菜を注文すると、楽天のドローンが注文データを受信して飛び立ち、直線距離で約600mの着陸地点まで、海上を迂回して約1.7kmを5分ほどで飛行して、重さ約500gの品物を無事に送り届けた。

 実験に使われたのは、楽天が「そら楽」というゴルフ場内のデリバリーサービスで使用しているドローン。ゴルフ場内という用途から完全自律飛行が可能なのが大きな特徴で、法規制さえ撤廃されれば、すぐにでも無人宅配用途に転用できそうな機体だ。

今治市の周辺図 
©Google Mapを元に作成
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 実験が行われた大三島は、地図にもあるように、今治市と広島県尾道市を結ぶ「しまなみ海道」(西瀬戸自動車道)の通る島だ。だが実験会場となった盛地区は島内でもかなり北に位置し、広島県竹原市の忠海港からのフェリーが発着する港もあることから、むしろ広島県との結びつきのほうが強そうにも思える。そこで、今治市企画課に取材をして、市内島嶼部の物流事情について話を聞いた。

 ところで今治市内の有人島は、しまなみ海道の通る島とそれ以外に分かれる。前者は大三島、伯方島、大島で、面積人口ともに大きいが、後者の関前諸島を構成する岡村島、小大下島、大下島はいずれも小さく、過疎化と高齢化がいっそう進んでいる。そこで以下では、大三島の盛地区と関前諸島の事情の違いを比較してみた。

 まず大三島の盛地区だが、上浦町内には食料品の小売店が1店あり、自社の軽トラックで今治市内の市場から買い付けて営業し、繁盛している。また、農協Aコープもあり、規模の上でも町内の主要店舗となっている。ほかに、市内食品スーパーの移動販売車による巡回販売が火・金・日の週3回ある。なお新聞は今治からの配達で、午前5時頃と、都市部と大差ない時間には届くようだ。次に宅配便については、ヤマト運輸は隣の伯方島の拠点から各家庭に配送しているが、とくに離島加算などはない。

 このように、大三島ではしまなみ海道のおかげもあって、島嶼部ゆえの不便さはさほどないようだ。そしてフェリーを使えばすぐの広島県よりも、やはり今治との結びつきのほうが強いこともわかった。

 ところが、島内における商品価格は、通行費用の加算もあって全般的に高くなっている。そのため、雑貨や衣料品などでは品揃えも考えて、クルマで島外に出る人も少なくない。

「今治に行くよりも高速料金が安いこともあり、島内の若い人たちは尾道の先の広島県福山市まで買い物に出かけることが多いようです」(今治市企画課)

橋がない小大下島と大下島はスーパーがなく
生鮮食料品の購入が課題

 次に関前諸島の3つの島だが、岡村島と残りの2島(小大下島[こおげじま]と大下島[おおげじま])で状況が大きく異なる。一番西にある岡村島は、2008年に「とびしま海道」の橋が開通したことで、芸予諸島の島伝いに広島県呉市まで道路でつながった(呉市側の最後の橋のみ有料)からだ。

 この橋の開通により、物流の流れが大きく変わった。岡村島のAコープの商品は広島県から届くようになり、宅配業者もヤマト運輸と佐川急便は「とびしま海道」経由で集荷に赴くようになった。一方、宅配便の配達や、新聞、郵便には今治港からの市営渡船や旅客船が使われている。ちなみにこの島には、松山市内のスーパーの移動販売車も毎週金曜日にやって来る。

 ところが、小大下島と大下島は橋がなく、すべてが今治港からの旅客船頼みとなっている。人口は小大下島が20~30人、大下島が200人ほどで、島内には食品スーパーと呼べるものはなく、生鮮食料品の購入が課題となっている。今治の病院まで出かけるついでに、買って帰る人も多いようだ。

 この関前諸島こそ、ドローン宅配の恩恵が大きい島々ではないだろうか。しかし、今治市の半島部からでも直線距離が5km以上あり、ドローンの飛行距離としてはいささか長すぎるのが難点である。ところが、今治市企画課によれば、岡村島を拠点にして、小大下島と大下島に日用品や宅配便、郵便物をドローンで届けるといった案もあるようだ。

 以上、無人ドローン宅配の可能性を、今治市島嶼部の物流事情に照らして考えてみた。現状で数百万円という機体価格が今後の普及によって下がり、運行安全性にも高い信頼が得られれば、離島や過疎地の生活環境を大きく変える可能性がある。

 これから21世紀の半ば以降にかけて、日本の総人口が減少し、経済規模が縮小する中、過疎地の集落をコストをかけて維持するよりは、皆が都市近郊に移り住んだほうが望ましいという意見を耳にすることもある。それにも一理あるとは思うが、反論したい点もある。

 なぜなら、自分の知る限り、都会で年金暮らしをするお年寄りより、山間部や海辺で畑作業や漁労を片手間にでもやっている年配者のほうが、ずっと元気で生き生きとしているからである。自然の中で体を動かすことは、健康増進効果があると思う。

 関前諸島の3つの島すべてを、数十年後も有人島として残すことは正直難しいだろう。だが、物流の問題さえ解消されれば、風光明媚で気候温暖な瀬戸内海の島で、老後を過ごすのには理想的な環境ともいえる。日本の津々浦々に眠っているそんな集落を未来に残すために、ドローンを生かす方法もあると思う。

(待兼音二郎/5時から作家塾(R)