『週刊ダイヤモンド』1月21日号の特集は「天才・奇才のつくり方 お受験・英才教育の真実」。才能を開花させるにはどうすればいのか。どんな教育をすればいいのか。その解を探りました。

 カナダに住む日本人の少年、大川翔に大きな転機が訪れたのは8歳のときだった。グレード3(小学3年)で担任教師から「翔は『Gifted(ギフティッド)』かもしれないから、試験を受けるように」と告げられた。

 ギフティッドを端的に訳すと「天才児」。贈り物を意味する「gift(ギフト)」が語源で、神あるいは天から与えられし贈り物を持つ人物を意味する。カナダでは、ギフティッドを政府が認定し、登録された子供は特別教育を受ける。通常の授業では物足りない生徒、いわゆる「吹きこぼれ」をすくい上げる仕組みだ。

 スクリーニング試験を経て、半年後に受けた認定試験は、専門家が長時間一対一で行った。学力だけでなく、発想力や創造力などが問われた。試験内容は学力、知能、論理力、語彙力を試すものから、絵を見て答える問題、連想ゲーム、ストーリー作成など多岐にわたった。学力試験は数学と英語(国語)が試験対象。数学は大の得意だが、ネーティブでないため明らかに不利な英語も、カナダ人の平均的英語読解力と比べて、少なくとも3学年以上「上」の読解力があると判断された。

 翔は0歳から5歳半ばまで日本の保育園に通い、5歳の春、親の仕事の都合でカナダに渡った。1歳ごろから英語のリスニングトレーニングを始め、5歳の夏休みは英語漬け。それでも、9月にグレード1(小学1年)に入学すると、英語のリーディングのクラスで最下位グループに振り分けられた。

 厳しい現実を突き付けられた翔は、英語を猛勉強し、毎日読む癖をつけた。ギフティッド認定試験を受けるよう担任に勧められた8歳のころには1日に1冊半から2冊、ページにして400〜500ページを読むようになっていた。

 夢中になって夜遅くまで読みふけっていると、親の「早く寝ろ!」という雷がよく落ちた。睡眠は記憶の定着や成長ホルモン分泌の上で大事というのもあるが、生活習慣を整えることは大川家の教育の柱だった。「勉強しろ!」と言う必要はなかった。英語のリーディング然り、勉強することはすでに翔の中で習慣化されていた。

 9歳でギフティッドに登録されると、週に数時間、通常の授業を抜け出して特別なカリキュラムによる教育を受けるようになった。そこでは高度な知識を詰め込むのではなく、うそ発見器を作ったり、知的好奇心をかき立てるようなお題が用意されていた。

 12歳のとき、グレード7(中学1年)からグレード10(高校1年)へ飛び級した。このタイミングで、実は日本で中高一貫校の渋谷教育学園幕張中学校を受験し、合格していた。日本とカナダのどちらで学ぶか、家族で話し合いを重ねた。結局、「どんどんチャレンジしたい」という翔の意思で、飛び級ができるカナダでより早く大学へ行く道を選んだ。

 カナダで教育を受ける最大のメリットは、チャレンジが尊重される雰囲気にあった。例えば小学校では、全校生徒の前でパフォーマンスする「タレント・ショー」があり、音楽やダンス、劇など何でもありで、オーディションに通った者のみが披露する機会を得る。出演できるのはある種のステータス。生徒たちは披露するレベルになかろうと、何度落選しようと、こぞって応募する。めげないし、挑戦する者を周りは笑わない。

 カナダの公立高校は14歳で卒業した。カナダの通常学年からすると3学年早く、日本の学校年齢でいうと4学年の飛び級だ。大学は選び放題で、マギル大学、ブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)、トロント大学、サイモン・フレーザー大学、ビクトリア大学とカナダの名門大学5校から、返済不要の奨学金や賞付きの合格通知が届いた。2014年の9月、3万ドルの奨学金(返済不要)と給料付きのリサーチ・アシスタント職の提示を受け、UBCのサイエンス学部に入学した。

 翔の幼少期、両親は共働きで忙しかったこともあり、教育にあまり時間はかけられなかった。それでも3歳からピアノ(週1回30分)と公文式(本来週2回のところ親が時間をつくれないため、週1回45分で国語と算数)を始めた。幼児教室にも通わせたかったが、時間的に無理だった。その分、教育関連の本、七田式や公文式などの知育教材、絵本、英語ビデオやDVD、粘土などを買いそろえ、親子で一緒に遊んだ。

 学童期からは空手(週3回各1時間)とピアノ(週1回1時間)。海外にいるため、通信教育の教材を活用した。日能研の「知の翼」(小学2年生)、Z会の「受験コース」(小学3〜6年生)、算数オリンピック数理教室「アルゴクラブ」の通信教育などで学習した。

 また、翔の父は帰国するたびに学研の「科学と学習」の実験・観察キットや「自由研究おたすけキット」などを購入。親子で結晶やモーターを作ったり、ソーラー電池で音を鳴らしたりして遊んでいた。「そういった経験が理系分野への興味を刺激したのかもしれない」と翔の母の栄美子は振り返る。

 「ギフティッドは、ただ勉強ができる人ではなくて、自ら興味を持っていろいろな情報を集めて、そこから何かを創造する人のことだと思う」と言う翔は、ギフティッド認定制度を「その能力を社会に貢献させようというもの」だと理解する。理系の道に進んでやりたいことが一つ見つかった。

 グレード3のとき、祖父ががんで亡くなった。小学校の同級生やカナダで世話になっている老婦人は糖尿病を抱えて大変そうだ。治療が難しい病気を治すための基礎研究に携わりたい──。16年夏、京都大学iPS細胞研究所所長の山中伸弥ら先端を走る研究者と話をする機会を得て、その思いは一層強くなった。

 生命システムの機能を含め世界は謎だらけ。勉強すればするほど謎は増える。あまたの謎を解いていきたい。そのために大学の次はどこへ進むか。17歳になった翔は次のチャレンジを考えている。

才能を開花させるための教育とは?

 『週刊ダイヤモンド』の1月21日号の特集は「天才・奇才のつくり方 お受験・英才教育の真実」です。

 天才は「変人」と聞きます。特集取材を始めるとき、会話が成立するのか、ちょっと不安でした。確かに「変人」ばかりでした。でも、話が面白い! 2時間、3時間があっという間に過ぎていく。才能を開花させた人たちは、豊かな感性で、充実した人生(経済的な話はまた別です)を生きていました。

 もちろん、悩み、苦しみ、挫折はあります。それを乗り越える本人の力、親をはじめとする周囲の力があってこそ、才を生かした人生を手にすることができたのです。

 では、才能を開花させるにはどうすればいのか。どんな教育をすればいいのか。本特集では、神童たちが歩んだ人生、スポーツ・芸術エリート育成の現場、科学的視点による天才と教育の真実、さらには小学校お受験の最前線に迫り、その解を探りました。

 「子供には、才能を磨いて幸せな人生を送ってほしい」。そんな親心に寄り添う情報満載の全50ページをお届けします。