『週刊ダイヤモンド』4月1日号の第一特集は「美術とおカネ アートの裏側全部見せます。」。特集では、お金の流れから作家の生活、歴史から鑑賞術まで全てを網羅した。ここでは、アートが好きな経営者や学者、画家や写真家など特集で取材した“美の達人”たちのインタビューをお届けしたい。今回は、現代美術マーケットをテーマにした小説『神の値段』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した推理作家の一色さゆり氏だ。(『週刊ダイヤモンド』編集部 竹田幸平)

小説内に登場する現代芸術家
モデルは河原温

──ギャラリー勤務経験を生かし、現代美術市場をテーマにした小説『神の値段』を執筆した背景にはどんな思いがあったのでしょうか。

このミス大賞『神の値段』に美術市場のリアルな姿を込めた思いいっしき・さゆり/1988年、京都府生まれ。東京藝術大学芸術学科卒業。第14回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞、2016年に『神の値段』でデビュー。

 世間一般で思われている美術のイメージというのが、あまりにも現実と懸け離れていると感じていました。例えば以前、知人にギャラリーで働いていると言ったら「街中で客引きして中に引き込むの?」と聞かれて。それは絵画商法をやっている悪徳ギャラリーだよ!と(笑)。

 そのようなイメージではなく、プライマリー(1次市場)やセカンダリー(2次市場)など、現実に存在するアート市場のリアルな枠組みを、小説ではきちんと伝えたいと考えていました。

 また物語には「インクアート(墨の芸術)」に関しての問題意識も織り交ぜています。中国ではインクアートが一つのジャンルとして確立し、大学教育でもカリグラフィー(書道や書画)という科があります。でも、日本の芸術系大学には書の科がありません。それは明治時代に論争が起きてから「書は芸術ならず」との見方が台頭し、美術教育から書が抜け落ちてしまった背景があります。この点は小説内で川田無名の意見としても登場します。

──いま名前が挙がった、小説内に登場する現代芸術家の「川田無名」にモデルはいたのでしょうか。