活発な買収で近年は売上高、利益を続伸させているキリンホールディングス。「攻め」の姿勢は評価される一方で、固定資産回転率に着目すると、危うさが見えてくる。

 ビール大手4社の中で、海外展開で最も先行しているキリンホールディングス。2000年代後半には総額約9000億円の巨費を投じて、豪州と東南アジア地区の乳業、飲料、ビール会社を毎年のように買収、傘下に収めていった。

 設備投資や営業網の構築といった作業を大幅に省略して、瞬く間に同地区での食品リーディングカンパニーの一角を占めるようになったキリンは、買収戦略の威力を業界内外に見せつけた。

 国内酒類市場の縮小にもかかわらず、キリンはここ数年で売上高、利益とも急拡大させている。 

 もっとも、それは危うさも孕んだ成長戦略だった。活発な買収による成果と課題は財務諸表の数字の変化にうかがえる。

 損益計算書(PL)では、売上高は05年度の約1.6兆円から10年度の約2.1兆円へと約5000億円も増加。営業利益も同期間で1117億円から1516億円へと約400億円増加させている(図(1))。海外を中心に投資先の売上高、利益を取り込み、グループとして順調にビジネスを拡大させていることが一目瞭然だ。

 貸借対照表は膨張し、悪化に転じた指標がある。顕著なのが負債の増加を背景とする、株主資本比率の低下だ(図(2))。

 もっとも、悪化したといっても10年末で36.3%あり、製造業としては問題のないレベル。むしろ株式市場などでは、財務レバレッジの効果で株主資本利益率(ROE)は上昇したし、「カネを貯め込む保守的な財務優良企業」から、「成長企業」に転じたことを前向きに評価する声が勝っている。

 問題なのは資産の内容と資産効率の悪化だ。資産効率を示す指標はいくつかあるが、年々悪化している「固定資産回転率」に注目したい(図(3))。固定資産回転率とは売上高を固定資産額で割った値で、資産の活用度を表していて、高いほど良好とされる。製造業では設備の稼働率の目安であり、一般的に2.5回以上が理想で、1回以下は危険域といわれている。

 望ましい値は製品などによって異なるため、ここでは変化率や競合との比較で評価する。キリンの場合、05年度の2.3回が10年度は1.6回に悪化している。ライバルのアサヒビールが直近で2.2回なので「警戒域」といえよう。

 通常ならば、装置産業で固定資産回転率の低下は設備投資の過剰か、売上高減少などによる設備稼働率悪化のサインである。だが、キリンの場合、分母の固定資産の内訳に目を転じれば、違ったサインとして見えてくる(図(4))。