いま、遺言や相続で悩まれている方が増えています。人それぞれ、いろいろな問題を抱えていますが、遺言があった場合となかった場合では、どう違うのでしょうか。ユニークな遺言の書き方を提唱する『90分で遺言書』の著者・塩原匡浩氏に、遺言のポイントを聞く。

子供がいない夫婦こそ「遺言」が効果を発揮する

夫婦に子供がいない場合、
遺言は必要なのか?

 知り合いの紹介で、あるご夫婦が事務所にいらっしゃいました。

「うちには子供がいないので、これから先の人生の備えを考えたいと思っています。何かいいアドバイスをいただけませんか? できれば妻と一緒に何か書面を残しておきたいのですが」と。

 ご夫婦ともに兄弟が多く、普段あまり付き合いのない甥や姪が何人かいるそうです。

 私はご夫婦に遺言をお互いに書き合うことをお勧めしました。この場合、遺言は2通となります。なぜなら、いくら夫婦仲がよくてもご夫婦が同じ用紙に遺言を残すことはできないからです。

 今回はご夫婦の財産を守ることに主眼を置いて、公正証書遺言をお勧めしました。

 お二人はようやく笑顔になり、私に原案作成と公証役場での証人、そして遺言執行者を依頼されてお帰りになりました。

 その後、私はお二人の出生から現在に至るまでのお話をじっくりお聞きし、これからの人生に想いを馳せながら、遺言の原案を作成しました。遺言には財産のことばかりでなく、それぞれの人生や大切な人への想いを書くことができるのです。

「遺言を書くことは生きること」とは、私がよくいう言葉ですが、遺言は相続が発生したときの争族(相続発生時に親族間で遺産めぐって争うこと)防止になるだけでなく、夫婦がお互いの人生の終焉をおもんばかって書くものでもあるのです。ご夫婦がお互いに遺言を書き合うのは、これからのひとつの愛の形になるかもしれないなあと感じた、心温まる出来事でした。