西武ホールデイングス傘下のプリンスホテルが、日本教職員組合(日教組)が東京都港区のグランドプリンスホテル高輪で予定していた「教育研究全国集会」の全体集会の開催を拒否した一件が、依然として波紋を広げている。全体集会の中止は1951年の開始以来初めてだ。集会の自由を損なう暴挙、開催を命じた司法判断にも従わなかった頑迷と、メデイアが批判し、政治家、官僚も非難の列に加わった。一方、プリンス側の説明に理解も広がり始めている。彼らの判断は単なる自己保身だったのか、多大な批判を受けてでも守るべき公共の福祉があったのか。後藤高志・西武ホールデイングス社長に聞いた。
(聞き手:辻広)

――改めて、日教組との契約を解除した理由を説明して欲しい

後藤:昨年11月初めに、プリンスホテルから報告を受けた。過去の(日教組の)教育研修全体集会のケースを調べると、(右翼活動家の)街宣車が150台も押し寄せ、千数百人の警察官が大掛かりな警備を行っている。

 過去の会場はリゾート地や田園地帯にある公会堂が主だったが、今回予定されていたグランドプリンスホテル新高輪は都心に立地しており、周囲は住宅密集地で病院、学校など公共施設も多い。そこで開催された場合、街宣車の大騒音や周辺道路が封鎖されることで交通が麻痺し、大混乱に陥ると判断した。

 しかも、過去にホテルで開催されたケースは2回しかなく、いずれも(日教組の)貸し切りだったが、当ホテルにはたくさんの宿泊客、お客様がいる。

――混乱があったとしても、「民主主義のコスト」として会場を提供すべきだったのではないか。

後藤:「民主主義のコスト」の意味はわかる。これは、苦渋の決断だ。2月1日には高輪地区の4つのプリンスホテルで約1万人の宿泊客があり、飲食も含めれば1日2万人以上のお客様が訪れる。また、当日は結婚式を挙げられる方が7組おられた。病院には重篤な患者さんとご家族もいらっしゃるだろう。

 そして、何より私が重大だと考えたのは、同集会の前日、当日の2月1、2日は当ホテルの半径2キロメートル圏内で入試があり、約7000名の生徒さんが受験する予定だったことだ。当ホテルにも受験生450人が宿泊していた。

 厳戒態勢のなか、身分証明書を提示して検問を通過し、大騒音のなかで受験しなければならなくなったら、受験生やご家族の長い間の努力の成果が存分に発揮できるだろうか。お客様、近隣の方々の安心安全を優先することこそ、われわれの義務だ。