モノと情報は過剰なまでに溢れ、街は清潔で安全に見える現代の日本。景気の悪化や精神的な不足感をどれだけ持ち出してきたとしても、その「豊かさ」を否定しきることはできない。しかし、いつの時代、どこにおいても、その社会から「貧困」が消えたことはないのと同様に、それが日本に残っていることも確かだ。ネットカフェ難民、生活保護、フリーター、ワーキングプア……。今も残る「貧しさ」とは、いかなるものなのか。
社会学者・開沼博が池袋のマクドナルドで出会った2人の少女、リナとマイカ。彼女たちは「移動キャバクラ」という聞きなれない生業に勤しむ。偶然の接点を頼りに生きる道を探り続けてきた2人の少女からは、現代の「豊かさ」と「貧しさ」の先に潜む現実が見えてきた。連載は全15回。隔週火曜日に更新。

 池袋のマクドナルドで夜を明かす2人の少女

 深夜1時の池袋のマクドナルド。腹より下を毛布で覆って眠る2人の少女がいた。バッグの中には歯磨きと洗顔剤、そして洗面用具。売上ゼロに終わった本日の財布の中身は、リナが300円、マイカが170円。

 目を覚ましたリナは、携帯電話で時間を見ながらボンヤリと思う。

「最近は24時間営業って言ってるくせに、深夜2時になると4時までとか5時まで清掃とか言われて追い出しくらうからな。また公園行って寝るか……」

 カネが無くなったら100円マック。マイカが飲み物を注文したら、リナはハンバーガーを頼む。それを互いに半分ずつ分け合って飢えを凌いでいる。

 空腹であれば、一度何かを口にすればある程度は我慢できるからマシだ。それよりも、タバコを吸えないことが何より辛い。2人とも1日2箱は吸うヘビースモーカーだ。耐え切れなくなって灰皿からシケモク(吸殻)を拾って吸おうとしたマイカを「ダッセー真似すんじゃねーよ!」とリナが怒鳴りつけたこともある。

「とりあえず、ここを出るまでに顔を洗って化粧しないと」