生活保護受給世帯の約半数は、高齢者世帯である。生活保護受給者について考えるためには、まず高齢の生活保護受給者の姿を知ることが不可欠だろう。今回は、生活保護を受給している82歳の男性の日常、生活保護受給に至るまでの波瀾万丈の人生、日々の思いを紹介する。
誰もが逃れることのできない「老い」。老いるまでには、長い人生がある。はたして人生は、各人が自己責任で選び取ることが可能なものなのだろうか? どのように老いるかを、各人は選ぶことができるのだろうか? 自分が意図しなかった人生を送り、意図しなかった形で高齢期を迎える可能性は、自己責任で避けることができる性質のものなのだろうか?
「今が一番いい」
Photo by Yoshiko Miwa
小林勇さん(82歳)の朝は早い。午前5時30分、遅くとも6時30分には目が覚めてしまうそうだ。
自費で購入した介護ベッドから起き上がった小林さんは、洗顔や着替えをして、まず読書をする。小林さんは、苦笑しながら、
「社会保障の本を読むことが多いですね」
と語る。長年関わっている貧困者支援ボランティア団体で、不要になった社会保障関連の書籍をもらってくることが多いそうだ。
午前8時ごろ、小林さんは焼いたパンだけの簡素な朝食を摂り、外に出かけてゆく。行き先は主に、東京都・中野区の住まいから徒歩数分の区立高齢者会館やデイサービスセンターである。
将棋の得意な小林さんは、高齢者会館や特別養護老人ホームなどで、将棋を指導するボランティア活動に参加している。また、ホームレスや生活保護受給者の社会参加を目的として設立された団体にも、ボランティアスタッフとして登録している。ときおり、植木の手入れなどをするという。
昼食は、高齢者会館で月に数度の会食サービスを利用したり、デイサービスで提供される昼食を食べたりする。デイサービス利用費の月額は、2万円ということだ。
小林さんの住まいには浴室がない。しかし中野区では、2012年6月30日まで、区内の19の高齢者会館・高齢者福祉センターで、近隣の高齢者に対して浴場を開放し、見守りのある安全な環境での入浴を提供していた。料金は1回300円。この制度は「中野区入浴困難高齢者支援入浴事業」という名称で継続されてきたが、2012年6月30日で廃止された。現在の中野区では、自宅での入浴が困難・危険な高齢者を対象とした入浴サービスは、デイサービスの一環としての入浴サービスのみになっている。