AIJ投資顧問による三流運用詐欺のような巨額年金資産消失事件に続いて、厚生年金基金の運用でまた不祥事が報じられた。

「日本経済新聞」(10月7日朝刊)によると、長野県建設業厚生年金基金は、運用会社3社(投資顧問2社、信託銀行1社)に70億円の年金資産運用を委託し、これを同基金が指定した投資会社のアドバイスに従って未公開株などに投資させた。その結果、運用資産は20億円に減った。本件には、基金資産の横領で指名手配中の同基金の元事務長が絡んでいるもようだが、運用3社はプロとして行うべきチェックを行わなかったとして、行政処分を受けることになる。

 この件を報ずる日経の見出し(第3面)は、「基金暴走 歯止めなく」および「運用3社 重い責任」とあるが、共に少し違和感がある。まず、基金一般の暴走ではなく、暴走した長野県建設業厚生年金基金が問題なので、「暴走基金 歯止めなく」がより適切だろう。また、顧客の言いなりになってビジネスを得たらしき運用3社は感心しないが、責任は基金のほうがはるかに重い。元事務長を管理・監督し、基金の資産運用についても責任を持っているはずの、理事長や常務理事が重大だ。

 AIJ事件は、投資顧問が「大悪」で、不注意な基金が「小悪」だったが、本件は、基金が「大悪」で運用会社は「小悪」だ。日経は、本件を、AIJ事件と似た構図で伝えようとし過ぎたようだ。

 本件の副作用で心配なのは、金融庁が運用会社の監督に「張り切り過ぎる」ことだ。多くの真面目な運用会社にあって、余計なコストとリスクが生じて、本来のビジネスがやりにくくなる。運用業界の創意工夫の邪魔になりかねないし、ビジネスの意欲そのものを削ぎかねない。そもそもプロ向けの運用会社は、プロが自分の責任で判断して使うものだし、行政が品質保証できるものではない。

 問題は、財政的に「手負い」で、運用に関する専門性が乏しい企業年金に、プロ的な資産運用を行わせて、大きな問題が起こるまで放置してきた厚生労働省の年金行政のほうにあると思う。AIJ事件も、金融庁にばかり矛先が向いているが(金融庁が利用しているともみえるが)、被害基金側での事件の実態は「貧して、鈍して、だまされて」ということであり、こうした背景をつくり、なお基金のハイリスクな運用を放置した厚労省の行政責任がもっと問われるべきだ。