「官民スキーム」は
国民負担の隠れ蓑

 安倍政権の経済政策の司令塔となる経済財政諮問会議と日本経済再生本部が始動した。大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略という「3本の矢」の具体化が始まるという。

 しかし、不思議なことに、これらの会議が始まる前から、官主導で民間企業や産業を救済していくスキームが次々に表面化している。各省庁が主導権争いの一環として観測気球を上げているのかもしれないが、「民間でできることは民間で」という、経済合理性を担保するための資本主義の大原則がないがしろにされていくのであれば、由々しき事態である。

 やっかいなのは、これら官僚は極めて巧妙に、常にこれらが「官民」のスキームであるとを、ことさらに強調することである。極めつけが、昨年12月31日付の日経新聞が大々的に報じた「官民共同会社による製造業の工場や設備の買い取り」スキームである。これは、設備更新サイクルが短い産業に対し、過去の古い設備を官民が作るリース会社が買い取って、これら企業の減価償却費負担を抑えようというものだと報じられている。

 しかし、考えてみればおかしな話だ。もし、それが経済合理的なディールなのであれば、民間のリース会社がリスクに見合ったリース契約に基づいて手掛けるべき話であって、政府が出る幕はない。また、企業の減価償却費は、名目的には費用であるがキャッシュアウト(現金支払いが発生)するものではないのであって、新規投資を減価償却の範囲で行なえば、何ら企業の資金繰りには影響しないはずではないか。

 要するに、このスキームは、「本来価値がなくなった工場や設備を政府が簿価で買い取る(リース業界的に言えば、「残価リスクを政府が取る」)という形で、企業に巧妙に資金を流し込む」という、もとより国民負担を前提としたスキームなのではないのか。

 特定の企業(恐らく電機メーカー)に直接補助金を渡すのがはばかられるゆえに、裏道を探ったのであろうが、補助金なら補助金と明示して、それがなぜ日本のために必要かを説明し、国民(国会)の審判を仰いで実施するのが王道ではないのか。政府が民間企業の経営に裏口から介入し、国民には何も知らしめないというのでは、共産主義国家と変わらない。