第2次安倍内閣が発足して3ヵ月余りが経過した。円安・株高が進み、家計・企業のマインドも好転し、日本経済に久方ぶりの明るさが戻っている。その一方で、その持続性への懐疑や思い切った金融政策の副作用に対する懸念も指摘される。いずれにせよ今回の政策転換が、これまでの縮小均衡に歯止めをかけ、将来への期待を取り戻した点では評価する声が大勢である。加えて、失われた20年を脱して、日本経済を再び一流国に浮上させるラストチャンスである、との見方を多くが共有しているところだろう。
そうした認識に立って、本シリーズでは、安倍内閣が掲げる経済政策、いわゆるアベノミクスが本当に経済再生・デフレ脱却をもたらすことができるのか、むしろそれらをもたらすためにはどういった修正が必要になるか、「建設的批判」の観点から検証・提言を行っていく。

やまだ・ひさし
1987年京都大学経済学部卒業(2003年法政大学大学院修士課程・経済学修了)。同年 住友銀行(現三井住友銀行)入行、91日本経済研究センター出向、93年より日本総合研究所調査部出向、98年同主任研究員、03年経済研究センター所長、05年マクロ経済研究センター所長、07年主席研究員、11年7月より現職。『雇用再生 戦後最悪の危機からどう脱出するか』(2009年、日本経済新聞出版社)『デフレ反転の成長戦略 「値下げ・賃下げの罠」からどう脱却するか』(2010年、東洋経済新報社)『市場主義3.0 「国家vs国家」を超えれば日本は再生する(2012年、東洋経済新報社)』など著書多数。

非伝統的金融政策の効果

 安倍首相は自らの経済政策の基本方針を①大胆な金融政策、②機動的な財政政策、③民間投資を喚起する成長戦略、の3本の矢からなると説明している。これらのうち、首相はとりわけ大胆な金融政策を重視し、日銀にいわゆる非伝統的な金融政策を思い切って行うことを要請してきた。しかし、ゼロ金利下で中央銀行が、バランスシートを拡大していく、非伝統的金融政策の効果をめぐっては、これまで激しい論争が繰り広げられてきた。

 なかなか見解の合意が得られないのは、そもそもこれらのツール適用の経験が乏しいことのほか、金融政策の波及経路、いわゆるトランスミッション・メカニズムが必ずしも明確でないことがある。金利の上げ下げを通じる伝統的政策は、それが企業や家計の借入コストを直接左右するため、設備投資や住宅投資を増減させるというルートが明確である。