アベノミクスは金融政策がすべてといってもいい。そのキモは驚くほど簡単だ。ひとことでいえば、デフレ予想からインフレ予想への転換だ。人々のインフレ予想率を高めるわけだ。
ポイントはインフレ予想
どういう経路をたどるかと言うと、マネタリーベース(中銀当座預金と中央銀行券の合計)を増やすとインフレ予想が高まる。すると、実質金利(名目金利マイナスインフレ予想率)が下がり、株価(株高)と為替(円安)に効く。これは早く出る。今はその最中だ。円安になると輸出は半年から1年半ぐらいの間に増加し、株高になると消費は半年から1年半ぐらいの間に上向く。
実質金利が低下するので、設備投資は半年から2年ぐらいの間に伸びる。輸出、消費と設備投資が伸びてくると、ようやく物価や賃金が上がる。ここまで約2年間だ。設備投資について、企業は内部資金を最初に使うから、外部資金を借りるまでには時間がかかるので、3年ぐらい経たないと貸出は増えない。そうなると金利も徐々にあがるだろう。
ここで、ポイントになっているのは、マネタリーベースを増やすとインフレ予想が高まるということだ。実質金利が下がると、円安、株高になるのは従来の経済理論でもわかる。輸出、消費、設備投資が伸びるのも、従来の経済理論だ。要するに、マネタリーベースを増やすとインフレ予想が高まるのかという点だけが、ちょっと怪しいところだった。
筆者は、こうしたメカニズムを1998年から2001年までプリンストン大学で学んだ。あとでクルーグマンに聞いたら、プリンストンは金融政策の研究ではトップで、世界的な権威が集まっているとのことだった。彼は冗談めかして、プリンストンはインフレ目標陰謀団の本拠地であるといっていた。毎週開かれる金融政策のセミナーで、ベン・バーナンキ、アラン・ブラインダー、ウィリアム・ブランソン、マイケル・ウッドフォード、ポール・クルーグマンらは、日本をやり玉にあげながら、喧々諤々の議論をし、日本のデフレへの処方箋を語り合っていた。
世界トップクラスの経済学者がいうのだから、3年間は貴重な体験だった。2001年に日本に帰国した筆者にとって、学術的な議論はもう必要なく、早く実行すべき政策課題だった。