安倍晋三内閣が「成長戦略」の柱として、地域を限定して大胆な規制緩和や税制改革を行う「国家戦略特区」が注目を集めている。政府が、国際競争力強化に貢献できる地域を「特区」に選定し、大胆な規制緩和を行うものである。
外国人医師、看護師の拡大や、英語が通じる病院を増やす「医療特区」や建物の容積率、用途規制を緩和し、都心で外国人が暮らしやすい高層マンションを建てやすくする「都市再生特区」、「解雇ルール」、「労働時間法制」、「有期雇用制度」の3点を見直し対象として、外資系企業やベンチャーが優秀な人材を確保しやすくなる「雇用特区」、そして「農業」「教育」「歴史的建築物活用」と6分野での特区を設ける方針となっている。
その狙いは、外国人が働きやすいビジネス環境を整えて外国企業を誘致し、世界と戦える国際都市の形成、国際的イノベーション拠点を整備することだ。安倍首相は、国家戦略特区を日本が持つ可能性を最大限引き出すための「突破口」と位置づけ、首相主導で進める考えを示している。
外国人・外資系企業のニーズが
何も入っていない「国家戦略特区」
ただ、気になることがある。それは、「外国人が働きやすいビジネス環境を整える」といいながら、国家戦略特区を構想している「産業競争力会議」の委員に、外国人がいないことだ。委員は、学者と日本企業の代表者が主である。彼らは外国人不在のまま議論を進め、なんとなく外国人が望むと思われることを羅列してみたという感じだ。
もちろん、国家戦略特区では、医療、教育、住居といった、外国人が日本に滞在する際の「大きな障害」をなくすための規制緩和案が多数提示されている。しかし、明らかに外国人・外資系企業の現状と乖離した規制緩和の案も含まれているのだ。
例えば、「雇用特区」では、「やむを得ない事情がないと企業は自由に解雇できないという『解雇ルール』を適用除外し、企業と働き手が約束した条件に沿って解雇することを認める」という規制緩和案がある。一見、終身雇用・年功序列を採用しない外資系企業にとって望ましい案のように思える。だが、現在でも外資系金融機関にとって、正社員の解雇は難しいことではない。例を挙げると、外資系企業で社員をいきなり会社の外に締め出す「ロックアウト解雇」が行われていることは周知の事実である。