現在流通している通貨が、ある日突然、使えなくなったらどうなるだろうか。たちまち社会が大混乱に陥ることは容易に想像できる。このような空想じみたことは、小説の世界でしかお目にかかれないが、それが過去3度も起こったのがミャンマーだ。
ミャンマーの銀行業をはじめとした金融業界について、これから3回のシリーズで見ていきたい。まず理解すべき点は、ミャンマーの歴史的な経緯から、自国通貨であるチャットに対する信頼度合いが、我々の一般的な感覚から大きく異なることだ。そのことを理解するために、通貨の基本的な価値が、ミャンマーではどのように機能していたのかという観点から、現地の金融システムの歴史を振り返ってみたい。
尺度、保存、交換
通貨の持つ3つの機能
経済学の教科書によく記載されているように、通貨には少なくとも3つの機能があると言われている。それが、「価値の尺度」「価値の保存」「交換の手段」だ。
「価値の尺度」とは、世の中で提供されている財・サービスに対して金額という尺度で評価することにより、それぞれの価値を相対的に示す機能のことだ。例えば、スイカが800円、メロンが1600円、サンマが100円というように、モノやサービスに値段という尺度を与えることで、価値を判断しやすくなる。
「価値の保存」とは、文字通り貨幣が価値を保存することが出来ることを指している。お金は、モノと違って腐ることはなく、貯めておけばいつでも好きなときにモノと交換(購入)することができる。たくさん貯めておけば、高価なモノと交換(購入)することもできる。このことを「価値の保存」と呼んでいる。
「交換の手段」とは、その経済社会のなかで提供されている財やサービスを見合った貨幣を出すことにより交換できるという機能だ。平たく言えば、お金を支払い、モノを買うことができるという機能で、貨幣に交換の手段としての機能があることで、経済活動の活発化が実現する。
それでは、これらの貨幣の基本的な機能が、どのように生かされてきたかを、ミャンマーの経済史のなかから見ていきたい。