ベトナム・ホーチミン市の日系企業で、ストライキが頻発している。

 ベトナムでは、2月上旬から中旬の旧正月が賃金改定およびボーナス支給の時期に当たり、昨年11月末頃から、これを睨んだストが続発。現地でも正確な件数は把握されていないが、発生は企業規模や業種を問わず、この2ヵ月で数十件に上る模様だ。

 背景の1つには、物価の上昇がある。1月の消費者物価指数は前年同期比約14%増に達し、労働者側は生活維持を理由に、20~30%もの賃上げを求めている。

 しかし、日系企業の賃金は水準よりもかなり高く、また物価上昇に見合うだけの最低賃金引き上げを行なっている。現地関係者によれば、直接的な要因は別にある。

 ストが増え始めたのは4年前からで、当初は賃金が低く、労働環境の劣悪な韓国系や台湾系の縫製・製靴企業などが主だった。ところが「一部の先鋭的なグループが扇動するようになり、これが日系企業にも飛び火した」という。

 発生しているストはほぼ全従業員が参加する大規模なものだが、ほとんどが“非合法”。ベトナムでも、労働法によりストを打つ場合は労働組合を通し、また事前通告しなければならないと定められている。各企業に正規の労組も組織されているのだが、実際にはこれがまったく機能していない。

 「交渉すべき代表者もはっきりせず、要求自体も日々変わるような調子で、対応に苦慮している。突然ストに突入するため生産計画にも影響する。ダメージは非常に大きい」(現地日系企業関係者)。さらに、このところサボタージュに近いかたちになるなど“巧妙化”している。

 進出企業は行政側に再三対策を求めているものの、実効的な手はいっこうに打たれない。むしろ、日系企業の賃上げを呼び水として全体の賃金水準を引き上げるべく、黙認している節すらある。中国に代わる生産基地として日系企業の進出が続いてきたベトナムだが、昨今は労働コスト上昇を嫌ってタイへシフト、あるいは中国に回帰する動きも出ている。無秩序な労働争議の横行は投資環境のさらなる悪化を招き、経済成長に水を差すことにもなりかねない。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 河野拓郎)