9月11日夜のテレビ番組に出演した際の、黒田東彦・日本銀行総裁の発言は、円安誘導を狙ったものだったと思われる。

テレビ番組に黒田総裁が生出演中、ドル円レートが106円から107円へ動くシーンも見受けられた(写真は記者会見時のもの)
Photo by Ryosuke Shimizu

 黒田総裁は、もしインフレ率が十分に上昇しない場合は、躊躇なく金融緩和策を強化するつもりであること、追加緩和策の手段は限られておらず、市場から購入できる資産はいくらでもあること、などを強調していた。

 それらの発言自体は目新しいものではない。しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ観測が徐々に市場で強まっている中で、あえてそういった発言を繰り返せば、円安ドル高の動きを後押しすることを黒田総裁は計算済みだっただろう。

 日銀は昨年4月4日に量的質的緩和策を導入した際、2年程度でインフレ率を2%へ押し上げると宣言した。その「約束」のデッドラインまで残りおよそ半年となってきたが、インフレ率はしばらくの間、1%台前半で推移しそうだ。

 消費増税による物価上昇を含めて、インフレの影響を差し引いた実質賃金は、前年比でマイナスとなっている家計が多い。インフレの再加速が始まるほど消費がこれから力強くなるかというと、現時点ではかなりの不確実性がある。

 このため、日銀としては為替レートを一段と円安に持っていくことで輸入物価を押し上げて、何とかインフレ率を春までに2%へ引き上げたいのだと思われる。