「撤退するアメリカ」がもたらす混沌とした世界の未来とは?日本の「自立」とアメリカの撤退、中国の増長がもたらす帰結を『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』の著者でもある、ピューリッツァー賞受賞・WSJコラムニストが予測する。

二〇一六年、日本首相の靖国参拝が
アメリカの「撤退」をもたらす

 アメリカの繁栄はきわめて相対的なものだった。失業率は六%と控えめな水準で推移していたが、それは労働人口が大幅に減ったことによるところが大きい。

 ベビーブーマー世代が引退して社会保障支出が急増する一方で、労働人口の減少で課税基盤は縮小した。オバマの大統領就任時は七〇%強だった財政赤字の対GDP比は、オバマが退任した二〇一六年初めには前代未聞の一二〇%に達していた。こうした統計はアメリカの外交にも影響を与えた。オバマ政権の初期に見られた、外国とのいざこざや限定的な軍事攻撃さえ避ける傾向は、二〇一六年までに国家的なコンセンサスになっていた。ヨーロッパ一金持ちの大国ドイツのために、なぜアメリカが年間八〇億ドルもかけて五万人近い兵力を駐留させなくてはいけないのか、というのだ。

 日本に対しても同じような論調が強くなっていた。二〇一六年二月、日本の首相が靖国神社に恒例の参拝をした。

 通常、靖国参拝はアジア諸国から猛烈な批判を浴び、ワシントンから無言の抗議を受ける。だが今回は違った。

自衛隊、尖閣諸島に上陸?<br />WSJコラムニストの予測する二〇一六年の未来

「戦争犯罪人を称え、近隣諸国を不当に挑発している以上、もはや日本にアメリカの保護を求める資格はない」と、ジョー・バイデン前副大統領はNBCの報道番組「ミート・ザ・プレス」で警告した。

 バイデンの発言にいら立った日本政府は、首相の元上級顧問に朝日新聞上で反論させた。「まともな敵もいないフランスには核兵器を保有する『権利』があるのに、敵対的態度を強める中国と、日本の領土を占領し続けるロシアに囲まれた日本にはなぜその権利がないのか

 通常はこうした騒ぎが起きると、事態を鎮静化する努力がなされる。だが今回は違った。

 アメリカの著名外交評論家は、日本は「老人と時代遅れの企業と古臭い考え方が染みついた国だ。政治的に偏狭で、根っから人種差別的で、借金と高齢化で滅びる運命だ。それなのに挑発的な態度と軍国主義的な政策で、国際的な地位にしがみつき、国の再生を図ろうとしている」と嘲笑した。さらにこの評論家は、こんな没落する国のために、アメリカは何十年も前の安全保障条約に縛られる必要があるのかと問いかけた。