三越と伊勢丹が経営統合して4月1日からスタートした「三越伊勢丹ホールディングス」。業績不振の三越を救済するための統合ともささやかれたが、それを証明するような出来事が相次いでいる。

 まず、三越が2011年をメドに大阪駅上で開店準備を進めていた大阪新店の事業主体が、三越からJR京都伊勢丹の運営会社でもあるJR西日本伊勢丹に移る。JR西日本との合弁会社ではあるが、社長も、新たに設置される開店準備室長も伊勢丹出身者。店名こそ「三越伊勢丹」の名を残し、ホールディングスとしての共同事業となるかたちだが、実質は“伊勢丹大阪店”としての色彩が濃くなる。

 もともと、競合店舗のすべてが大阪新店の開業と同時期に増床オープンするキタ地区に、業績不振で大阪店を閉店した三越が単独で出店することを危惧する声がここ最近高まっていた。

 大阪再出店は数年来の三越の“悲願”でもあったが、競争環境の激化のなか、ファッションに強い伊勢丹を主体に「確実に勝てる店」づくりを進めざるをえなくなったといえる。

 三越の「伊勢丹化」は、これ以外でもすでに進んでいる。売り場を表す用語として伊勢丹で長らく使われている「お買い場」が三越内でも全面採用され、1日から行なわれている「三越伊勢丹ホールディングス誕生祭」で販売されている企画商品も「ほとんど伊勢丹のバイヤーの手によるものばかり。商品面では完全に伊勢丹主導になるのだと実感した」とある取引先は言う。

 人事も同様だ。経営戦略、営業政策の2つの基幹部門のトップは伊勢丹出身の2専務が占める。さらに、三越の商品政策の要であるMD統括部長や、婦人・雑貨統括部長にも伊勢丹出身者が充てられた。三越から伊勢丹に派遣されたのは府中店店長のみだ。

 三越は2008年2月期決算の予想を下方修正した。連結売上高で前期比1.9%減の7738億円、連結営業利益で29.2%減の85億円と、減収減益基調からいっこうに抜け出せないでいる。

 「現状では、先方から学ばなければならないもののほうが圧倒的に多いのは仕方がない」(三越社員)と諦めの声もある。三越の不振が長引けば長引くほど、救済者としての伊勢丹の存在意義が高まり、ひいては名実共に伊勢丹支配が強まる――。これが巨大百貨店統合劇の裏にある冷徹な現実である。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)