東京大学の合格を目指す「東大ロボくん」のプロジェクトリーダーを務める国立情報学研究所の新井紀子教授は、法学部出身の数学者という異例の経歴を持つ。法律にも似た「数学の言葉」を知ることが、デジタル時代を生き抜くためのカギになるという。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 森川 潤、後藤直義)
※このインタビューは、週刊ダイヤモンド1/23号「使える!数学」で掲載した新井氏へのインタビューの拡大版です。
――ビジネスマンには、数学が苦手な人が多くいます。
1962年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。米イリノイ大学大学院数学科博士課程修了。2006年に国立情報学研究所教授、人工知能「東ロボくん」のプロジェクトディレクター。著書に『生き抜くための数学入門』『コンピュータが仕事を奪う』など。専門は数理論理学。
正直に言いますと、私は小さいころから算数も数学もあんまり得意じゃありませんでした。学校で習った科目でも、一番苦手で一番嫌いだったのが数学なのです。
今から振り返れば、数学が怖かったのだなと思います。本当に頭がいい人というのは、数学が良くできる人であり、私みたいな子は「あなたはダメです。失格です」と、数学から“宣言”されるのが怖かったのだと思います。
そんな数学が、実は法律や哲学などとよく似た「言葉」と気付いたのは大学時代でした。私は法学部出身で、冤罪事件などの裁判を傍聴した経験があります。そういう冤罪事件に巻き込まれた被告の方は「本当に自分はやっていない。どうしてもそれをわかってほしい」と思っています。だから当初は普通の人が、無罪を勝ち取るころには、すごく論理的になるのです。
――すると、数学で大事なのは計算とかではなく、論理であると。
グローバル化した社会で、いろいろな立場の人が話し合いによって物事を解決するには、まさにこうした数学的な「論理」が大切だと思っているのです。数学は社会の中で自分の身を守り、生きてゆくための道具でもあるのです。
論理を身につけるときに重要なのは、公理や定義について考えることです。具体的には「~とは」「~ならば」と考えられることが第一歩です。例えば「今日私がやるべきことは」と考えることで、何をプライオリティにすべきが見えてきます。これが身につけば、いろいろな側面で、人生が少しよくなってくるはずです。