NISA導入の牽引者、
森金融庁長官の異色な横顔
『文藝春秋』(最近話題の『週刊文春』ではなく月刊の方だ)の5月号に、「銀行は『半沢直樹』を見習え」というタイトルで、金融庁の森信親(もり・のぶちか)長官の談話を金融ジャーナリストの浪川攻記者がまとめた記事が載っている。普通、官僚の語りは面白くないのだが、浪川氏はベテランの金融ジャーナリストで取材先に媚びない方なので、読んでみた。
これが、実に面白かった! 金融業界関係者はもちろん、一般個人もぜひ読むといい。記事にあるように、森氏はNISA(少額投資非課税制度)導入の牽引者だった。そしてそのNISAには、5年間の非課税期間の途中で証券を売却すると、その分はNISAの枠内で再投資できず、運用益非課税の対象から外れてしまう仕組みが仕込まれていた。
これは、NISA口座内での投資信託の乗り換えを不可能にする措置だ。率直に言って、利用者にとって不便な面でもあるのだが、投信ビジネスにおける金融機関の「乗り換え勧誘営業」に対する敵意(!)にも近い問題意識が感じられると同時に、日本の投資家に投信の基本は長期保有であることを「教育」しようとの意図を感じる。推測するに、森氏は金融検査業務への関わりを通じて、日本の金融機関の投信営業のあまりのひどさに正義感を刺激されたのだろう。
総合的に見て、NISAにおけるこの制約は、目下のところ、投資家の利益になっていると筆者は判断する。証券会社にせよ、銀行にせよ、金融機関の対面営業型の投資信託販売は、金融庁が心配するのに十分値するくらいひどいからである。
記事の前半で、森長官はリーマンショック後に強化された金融機関に対する規制の行き過ぎが、銀行のビジネス、ひいては本業である融資の萎縮につながっているのではないかとの認識を示しており、規制緩和論者(官僚には珍しく)であるかのように見える。しかし他方で、規制の不足ないし過剰な緩和が利用者の利益を損なっているケースに対しても、問題意識をお持ちのようだ。
優れたバランス感覚と実行力を持つ異色の官僚だ。
森長官は、たとえば証券営業の現場について次のように心配する。
「ある証券会社に『投資信託を買いたい』というお客様が来たとしましょう。TOPIX連動型のETF(上場型投資信託)は手数料が安い。しかし、証券会社は系列の投信会社が作った投資信託を売りたい。同じ商品設計ならば一般的にはETFの方が手数料が安いので、この二つを比較すれば、大抵のお客さんはETFを買いたがるでしょう。ところが、多くの証券会社は『二つの商品がありますが、どちらにしますか?』とは言いません。お客さんが『ETFを買いたい』と言い出さない限り、系列の投信会社の商品を勧めるでしょう」