2017年4月に東燃ゼネラル石油と経営統合するJXホールディングス。国内ガソリン事業が縮小するため、海外へ活路を見いだしているが、その前に低収益体質から脱するための、大規模な構造改革が必須だ。(「週刊ダイヤモンド」編集部 片田江康男)

 年度末で慌ただしかった3月30日。石油元売り首位のJXホールディングス(以下、JX)傘下のJXエネルギーが展開するガソリンスタンド、「エネオス」特約店の担当者に、JXから1通のメールが届いた。

 内容はガソリン類の卸価格の先行価格についてだった。先行価格を3月31日の1日だけ、ガソリンは2.5円、灯油は5.5円、A重油は5円、それぞれ値下げし、4月1~6日はそれぞれ4.5円値上げするという。

 JXはガソリンを特約店に卸す際の先行価格を発表しており、それは特約店と卸価格を決める交渉のときに基準となる。

 通常、先行価格を1日だけ変えたりはしない。JXはなぜそんな不可解な値付けをしたのか。

「先行価格を下げ、買い手の特約店が有利に卸価格の交渉ができるようにし、特約店をもうけさせるため」(特約店担当者)なのだ。

 実はこれこそ、JXの最大の課題といわれる「事後調整」の一つだ。事後調整は元売りと特約店が実際の卸価格で取引した後、“事後”的に卸価格を“調整”する、業界内特有の商習慣だ。

 JXが先行価格を下げると、後に特約店との間で行われる卸価格決定の交渉では、特約店にとって安い卸価格をJXから引き出しやすくなる。事後調整を暗に促すことにつながるのだ。

 国内のガソリン需要が伸びない中、各元売りにとってガソリンシェアの維持・拡大は最重要課題。実際にガソリンスタンドを経営する特約店には、なんとしても地域でのシェアを守ってほしい。卸価格を下げてもうけさせることは、いわば“陣中見舞い”なのだ。

 当然、事後調整によって卸価格が下がるのだから、JX側の収支は悪化する。だが特約店がシェア争いに負けてつぶれ、ガソリンの販売先が急減し、製油所の稼働率が落ちるよりはましだ。何より、製油所閉鎖という大規模なリストラにつながるリスクを回避できる。

 事後調整は恒常的に行われている。JXは「事後調整については回答できない」と、そういった取引の存在すら認めていない。だが、冒頭のような調整が行われている事実があり、別の特約店経営者も「ガソリンスタンドを多く持つ特約店ほど、やっている」と話す。

製油所統廃合などの大規模なリストラは避けられない

 元売り各社はエネルギー安定供給のために70日分の在庫を常備するよう義務付けられている。そのため資源価格の変動により在庫評価額が大きくぶれ、決算に響く。