先進国をはじめ、いつ終わるともわからない“崩落”を続けている自動車業界。かつて世界を席巻していたGMやクライスラーなどの“BIG3”は、米国政府からの緊急支援で命脈を保ちつつ、「破綻か存続か」の瀬戸際にいる。日本メーカーも例外ではない。今年度はトヨタ自動車や日産自動車などが、過去最大級の大赤字に陥る見通しだ。
しかしここに来て、そんな暗雲に包まれた自動車業界に「一筋の光明」が差し込んでいる。かねてより“環境に優しいクルマ”と注目されてきた「ハイブリッド車」の販売が、がぜん熱を帯び始めたのだ。
その火付け役こそ、2月上旬からホンダ(本田技研工業)が日本市場に投入した新型ハイブリッド車「インサイト」である。
この大不況にもかかわらず、その売れ行きは予想以上に好調だ。「発売開始当初から人気はうなぎ上りで、受注は月間目標を3倍近く上回る約1万5000台に達した」と、ホンダ関係者はホクホク顔で語る。
「全国の販売店には、問い合わせが連日のように舞い込んでおり、インサイト人気の相乗効果で、同じ価格帯の他の車種が通常の1.2~1.3倍ペースで売れている販売店もある」(ホンダ)というのだ。
1990年代後半から、ハイブリッド車市場は、大きなシェアを持つトヨタの「プリウス」が牽引して来た。そんな“一人勝ち”の市場に、ホンダの新型インサイトは一石を投じたのである。「今後の動向次第では、市場の勢力図を塗り替えるのではないか」(業界関係者)という期待も寄せられている。
2009年3月期は、赤字こそ回避できるものの、大幅な減収減益を余儀なくされる見通しのホンダ。世界的な新車の販売不振や在庫の増大により、09年度の乗用車生産台数は、08年度から数十万台ベースで落ち込みそうだ。国内に至っては、十数年ぶりの「100万台割れ」になるという。
そんなさなかに予期せず到来したインサイト特需は、同社にとってまさしく“慈雨”となった。今春から欧米でも販売を開始する予定で、「プリウスのシェアを果敢に狙って行きたい」と同社は意気軒昂である。
その快進撃の背景には、いったい何があるのだろうか?
最大の理由は、何と言っても“安さ”にある。これまで一人勝ちを続けて来たトヨタのプリウスと比べれば、その差は歴然。現行の量販タイプのプリウスが消費税込みで約233万円するのに対し、インサイトはそれより44万円も安い「189万円から」となっている。