不況で国民の給料や消費などあらゆるものが減ったが、ただひとつ減らなかったものがある。人々の食欲だ。
そればかりか、景気後退期に入ってから、店じまいするレストランが続出する一方で、自宅で料理をする人々は増えた。グーグルは一時、「レストラン」検索よりも、「レシピ」検索が増えているという傾向を明らかにしていた。
朝から晩まで24時間
料理と食べ物だけの番組を流す
料理が苦手なアメリカ人が、ついにキッチンに立っている。ここ最近は、アメリカの料理事情に大きな変化が出ているのだ。
そんな傾向を後押ししているのが、フード・ネットワークである。フード・ネットワークは、料理専門のケーブルテレビ局。朝から晩まで24時間、料理と食べ物の番組だけを流し続けているテレビだ。つい最近までは、家庭の主婦向けの地味なテレビ局だったが、ここ数年は数々のスター・シェフをここから排出し、シェフまわりのブランド製品で稼ぎまくる存在になっている。
いったいどんなテレビ局なのか、ちょっと番組を覗いてみよう。フード・ネットワークには現在、60人近い有名シェフが名前を連ねている。シェフと言っても、レストランを持っているわけではない。彼らは、この局で育てられた「テレビ・シェフ」がほとんどだ。
たとえば、現在、絶大な人気を誇るレイチェル・レイは、レシピ本が飛ぶように売れる全米で引っ張りだこの存在。フード・ネットワークでは『30分で作れる夕食』『1日40ドルの食事』という番組のホストを務めるほか、いろいろなスポットにも登場するおなじみの顔だ。
もともと彼女は、町のグルメ食品スーパーで料理クラスを教えているところを、フード・ネットワークに見いだされてテレビ出演が決まった。明るい性格とセクシーな肢体、迫力あるパフォーマンスで一気に人気を獲得し、現在はレイチェル・レイ・ブランドのキッチン製品も発売されている。
しかも、何と彼女のマネージメント会社は、数多くのハリウッドのスターが所属するタレント・エージェンシーであるウィリアム・モリス・エージェンシーだ。レイチェル・レイは、単においしいレシピを披露する料理家ではなく、料理本や講演、ブランド製品の売り上げ、大手スーパーとの提携からの収入を、テレビ局に流し続けるドル箱なのだ。