上海で日本人駐在員が現地総合病院に1週間入院したときのことだ。その豪華な部屋の様子と対応のよさを菊田幸司さん(仮名)は次のように話してくれた。
「部屋にはバス、トイレ、30インチのフラットテレビ、来客用ソファーがついていて、ちょっとしたホテルでしたね。看護士も頻繁に顔を出してくれ、お手伝いさんは2交代制で付き添う。食事は中華か洋食を選択できて、気になることにはすぐ医師が駆けつけてくれるんです。レントゲンなどの設備を使う場合も、常に行列の最前列に通してもらえて……」
それに比べると一般市民の診療は地獄のようだ。早朝5時に家を出てひたすら順番待ち。広域から病人が大挙して押し寄せるため、診察の申し込み、検査、診察、処方と病身をひきずりながらも一通りこなすにはほぼ一日がかりだ。
診察の精度、患者の扱いに対しては誰もが不満を抱く。入院となればなおさらで、無表情の医師に目を掛けてもらえるようにと裏で札束が動く。カネとコネがなければまともな医療は受けられない、生き地獄とはまさにこのことである。
退院日も教えられず
過剰な施術をする病院
上海にはこうした一般市民向けとは別に、上述のような外国人向けの特別診察室がある。料金差は10倍以上とも。さらに現金支払いではない「海外旅行保険」を持った日本人は上客だ。病院側は「もっと請求できる」とばかりに超VIP級の待遇という付加価値をつけて課金しようとする側面があることは、在住の日本人の間でも問題視されている。
事実、菊田さんは次のように語っている。
「過剰と感じる施術もありました。退院日も教えません。これってやっぱり金儲けか、と疑いました」
上海で医療はビジネス――。一部には、あるべき医療を追求する良心ある医者が存在することは筆者も知っている。だが、海外旅行保険に加入している日本人に少しでも多く請求しようという、ここ数年の傾向は否定できない。それを助長するのがキャッシュレスサービスというしくみだ。
キャッシュレスとは、提携病院であれば患者が費用を立替することなしに治療を受けられる海外旅行保険のサービスのことで、上海でもここ10年で普及した。それは、患者にとって極めて便利であるはずのしくみだった。