
【タイグエン(ベトナム)】この5月、当地の家具工場で働く数百人の労働者にうれしいサプライズがあった。中国人の経営者が賃金を45%近く引き上げたのだ。
工場主のレン・リー氏によると、中国企業の間で米国が課す高関税を回避するためにベトナムに拠点を移す動きが広がり、従業員の引き抜きを防ぐため大幅な賃上げが必要になったという。
「どんどん押し寄せてくる」とリー氏は語った。「大きな波のようになるだろう」
リー氏ら工場主にとって、経済的な論理は単純だ。中国で作られた製品は米国に輸入される際、一般的に40~50%の関税が課される。ドナルド・トランプ米大統領は今月、ベトナムに対する新たな関税率を20%にすると発表しており、コスト面でベトナムの相対的な魅力が高まっている。中国での生産については、米ホームセンター大手ロウズや米玩具大手ハズブロなど、欧米の企業は中国への依存を減らす方針を掲げてきた。
ベトナムなど相対的に関税の低い国で生産しようとする動きが加速しているものの、それによって中国が貿易の舞台から消えるわけではない。むしろ中国企業は輸出貿易の中心にとどまり続けている。中国は工場を建てることにかけては世界のどこにおいてでも一般的に優位性を持っており、米国についても例外ではない。
シンガポールのシンクタンクであるISEASユソフ・イシャク研究所のシニアフェロー、レー・ホン・ヒェップ氏は中国企業について、「あらゆる技術とあらゆるノウハウを持っている」とし、「ベトナムで現地企業が自前で力をつけるよりも短期間で工場を立ち上げることができる」と述べた。