地上デジタル放送への移行がもたらすメリットは、なにも家電メーカーや量販店だけが受けるわけではない。

 「これはビジネスチャンスだととらえている」

 このように語るのは光村図書出版の開発部長の馬場泰郎氏だ。

 光村図書は教科書の発行で知られているが、最近注力しているのが「デジタル教科書」だ。これは名前のとおりデジタル化された教科書で、教室でPCに接続された大画面テレビに映したり、プロジェクターでスクリーンに投影させたりして利用する。「今の授業をより発展させ、深める一助となるものにしたかった」と話す馬場氏が言うとおり、紙の教科書ではできない、多彩な機能が搭載されている。

線を引く、マーカーで色づけるなど、生徒にもできるようになっている。子どもの積極性やプレゼン能力の向上にも期待できる。現在は小中向けの国語のほか、漢字や古典などの教材がある。

 具体的な使い方としては、国語の授業では教科書にある物語を映し出し、みんなで朗読するといったことができる。効果としては、クラス全員が同じ画面を見ることで一体感が生まれるといったことがある。また、教科書の文字部分や挿絵など、教師が生徒に注目して欲しいところだけをクローズアップすることができるので、子どもの集中力が高まる。さらには、画面にタッチパネル機能を有するものを利用すれば、直接画面に触れて、挿絵を掴んで移動させる、画面にタッチしてマーカーで線を引くなど、デジタル機器ならではの操作ができる。

 実際に利用している学校では、生徒が前に出てきて、画面に触れながら自身の意見を述べるといった場面も見られる。子どもにとっては珍しさも手伝い興味深いものであることはいうまでもない。デジタル教科書を導入することで、積極的に手を上げる子が増えたという声は少なくない。

 ところで、少子化に伴い厳しい状況にある教科書出版産業だが、テレビの地上デジタル放送への移行はまさに「神風」である。緊急経済対策の一環としての「スクール・ニューディール」構想や文科省の「学校ICT環境整備事業」により、デジタルテレビ設置などの環境整備について予算がついた。これにより、学校が一定の手続きをすることで、今のアナログテレビにかえてデジタルテレビを導入することができる。主に設置されるテレビは、一クラス40人を想定し、50インチ以上の大型のデジタルテレビ(主にプラズマテレビ)で、このデジタルテレビは端子にPCをつなぐこともできる。

 このようなハード整備に伴い、今後は優良なソフトウエアコンテンツへの要望が高まるはずだ。したがって、デジタル教材への要望はますます強くなるに違いない。これが光村図書の読みだ。数年前に開発したデジタル教科書に、今、注力している理由はここにある。今後、さらにデジタル教科書の普及がなされれば、教科書出版社だけでなく、退屈な授業が面白いものに変わる子どもたちや、授業の準備が軽減できる教師にとってもうれしいことになる。

(江口 陽子)