世界的な自動車研究の拠点・ミシガン大学の名物教授で、米国におけるトヨタ研究の第一人者でもあるジェフリー・ライカー博士が、独自の情報源から知り得たトヨタ・リコール問題の“深層”を語った。同氏は、今回の騒動はロサンゼルス(LA)タイムズと謎の人物ショーン・ケイン氏によるトヨタバッシング報道に端を発したものであり、巷間言われている製造エンジニアリングの根本的な問題ではないと断じる。この見方を、『ザ・トヨタウェイ』の筆者によるトヨタ擁護論とばかりも言い切れない。専門家ならではの冷徹かつ詳細な説明には、日本では報じられない数々の衝撃的な情報が含まれている。(聞き手/ジャーナリスト 大野和基)

ジェフリー・K・ライカー
ジェフリー・K・ライカー
(Jeffrey K.Liker)
世界的な自動車研究のメッカであるミシガン大学工学部産業およびオペレーション・エンジニアリング学科の教授。ジャパン・テクノロジーマネジメント・プログラム、リーン生産開発プログラムを同大学で創設。トヨタ自動車生産現場の人とモノのシステムを分析した著書『ザ・トヨタウェイ』は、新郷重夫賞を受賞した。ほかにもリーン生産や日本の製造業に関する著作、論文は多い。ノースイースタン大学で産業エンジニアリングを専攻、マサチューセッツ大学で社会学博士号を取得

―米国現地時間で2月24日に行われた豊田章男社長が登壇した公聴会を観たか。

 観た。

―全体的な感想は?

 豊田氏は、ひどく無礼な物腰の議員たちから悪意を持って攻撃された。議員たちは彼の会社を人を殺したとして(killing people)、露骨に非難し続けた。彼らに真実を知りたいという気持ちはなく、公聴会の前に、すでに豊田氏を裁いて有罪だと決めつけていた。

 実際は、電子系統の欠陥のために急加速して誰かが亡くなったという証拠など一切ない。集団訴訟という法的な文脈において犠牲者という言葉があるだけだ。それなのに、(豊田氏は)まるですでに有罪になった殺人者のように扱われていた。彼が発するいかなる言葉も、彼に不利に扱われた。そんな針のむしろの状況で、豊田氏は真相の究明と会社の改善について真摯に取り組むと何回も冷静に繰り返した。彼は自分にそのこと(今回のリコール問題)について知識がないことは認めはしなかったが、決して保身の態勢に入らなかったことは良い。私は豊田氏の沈着と誠実、そして問題を解決しようとする真剣な姿勢にひどく感銘を受けた。

―しかし表面上、トヨタは突然大きくよろめき始めているように見える。そもそも、アメリカ人はトヨタの何を問題視しているのか。

 急加速問題に関する苦情は(トヨタに限らず)かなり以前からあったが、元をたどれば、ロサンゼルス(LA)タイムズのある記者がトヨタ車の加速問題に焦点を絞って調査を始めたことに(今回の一連の騒ぎは)端を発する。実はこの記者はショーン・ケインという人物と組んで、一緒に調査をした。資金はトヨタに対して集団訴訟をする弁護士たちが出している。