――大手中古車販売会社による保険金の不正請求に端を発し、損害保険大手による価格カルテル、さらには生命保険業界でも、営業社員による多額の金銭詐取や代理店を介した他社契約情報の不正取得など、保険業界で相次いで問題が発覚しています。
貴社も、5月1日に、社員が出向していた銀行などの販売代理店から内部情報を無断で持ち出していたと発表しました。業界全体が厳しい視線にさらされていますが、今の状況をどう受け止めていますか。
当社の問題を非常に重く受け止めていると同時に、業界全体を揺るがしている他社の不祥事も、決して人ごとではないと強い危機感を持っています。
生命保険は、一般の方にとって、日常的に使う商品ではありません。多くの場合、「何も起きなければ、その価値が見えない」存在です。それでも、契約者の皆さまが長い年月にわたって保険契約を続けられてきたのは、もしものときに、確かに役に立ってきた実績があるからだと思っています。
なぜ生命保険が必要とされ続けてきたのか。今こそ、その原点に立ち返って考える必要があると感じています。
メットライフ生命 執行役員 常務 エイジェンシー部門長 内元伸一 氏大手国内生保にて営業、所管長職を経験した後、2004年に旧アリコジャパンに入社。営業本部で業務部長、営業管理部長を担うなど、長年エイジェンシーチャネルの中枢として活躍し、24年より現職。最近では、ガバナンス強化プロジェクトも担う。
――生命保険が「社会にとって必要な存在」であり続けてきた背景には、何があるとお考えですか。
人生には、突然の病気や事故、自然災害など、自分ではコントロールできない出来事が必ず起こります。当社は日本で半世紀以上、個人・法人向けに幅広い保障を提供してきており、この長い歴史の中で、そうした場面に数多く向き合ってきました。
今年は東日本大震災から15年、熊本地震から10年の節目に当たります。被災直後の混乱した状況で「保険金が支払われるのか」「誰に相談すればいいのか」というお問い合わせが殺到しましたが、現地の営業社員たちが丁寧に対応したのを今でも覚えています。
いざというときに、お客さまにしっかり向き合い、心の支えになれるかどうか、そこに、生命保険会社と営業社員の存在意義があると思っています。
信頼を積み上げる「凡事徹底」
――エイジェンシー(AG)部門として大切にしている考え方について教えてください。
メットライフ生命には複数の販売チャネルがありますが、AG部門は、当社の社員である約4000人のコンサルタントが直接お客さまに向き合う営業部門です。販売代理店経由ではなく、当社の「顔」として、お客さま一人一人のライフプランに深く関わります。
そうした中で、私は凡事徹底という姿勢を、あらゆる取り組みの土台にすべきだと考えています。新しい取り組みを次々に打ち出すことだけが、信頼回復につながるとは考えていません。むしろ、これまでずっと続けてきた説明や活動記録、アフターフォローといった基本的な取り組みやルールの順守を、どこまで一つ一つ丁寧に、徹底してやり切れるかが、問われていると思っています。
凡事徹底ができているからこそ、いざというときに、お客さまのそばに立てると考えています。
――「既存の取り組みを、新鮮なものとして捉える」という指導もされていると聞きました。
長く続けている取り組みほど、形骸化しやすいものです。しかし、お客さまにとっては、そのときの説明や対応が、その方にとって人生で一度きりかもしれません。
あるお客さまにとって、営業社員の一言や態度が、「この人、この会社を信頼できるかどうか」を決めることもある。だから私は、「慣れている既存の取り組みであっても、常に新鮮な気持ちで向き合ってほしい」と伝えています。
――「バランス感」というキーワードも大切にされているそうですね。
ダイヤモンド社 ダイヤモンド編集部論説委員 小栗正嗣早稲田大学法学部卒業後、1987年ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長を経て、2014年より現職。ダイヤモンド•オンラインでの連載の他、『【エッセンシャル版】ドラッカー 週刊ダイヤモンド 特集BOOKS』(共著)など著書多数。
どんな環境でも対応できる状態をつくることは、営業にとって非常に重要です。提案する商品、個人・法人といったマーケット、新規募集とアフターフォローといった活動内容。どちらか一方に偏ってしまうと、環境変化に十分に対応できなくなります。
生命保険は、長期にわたってお客さまと向き合う仕事です。だからこそ、あらゆるお客さまのニーズにバランスよく対応できる力が、結果として「この人、この会社なら任せられる」という安心につながると考えています。
数字を「目的」にしないマネジメント
――管理職には、「メッセージを大事にせよ」と指導していると聞きました。
例えば、目標が単なる数字として伝わってしまうと、行動は形だけになります。生命保険は相互扶助の仕組みですから、母集団が大きいほど、契約者の皆さまの受益性が高まります。そのため、契約者数という数字はもちろん重要な意味合いを持ちます。
しかし、その数字はあくまで「お客さまから頂いた評価の結果」であり、追い掛けるべき「目的」になってはいけないと考えています。
これに限らず、あらゆる取り組みについてどんな背景や狙いがあるのか、それを自分の言葉できちんと伝え続け、組織の中で浸透させることが、管理職の大切な役割だと思っています。
生命保険の仕事は、その先に必ずお客さまの生活がある。その実感が共有されてこそ、組織は本来の意味で動いていくと考えています。
――組織づくりの面で、特に意識されていることはありますか。
心理的安全性の確保は、強くこだわっている点です。社員が安心して上司や先輩に相談できない環境では、正しい判断は生まれません。私自身も月に2回は全国のオフィスに赴き、営業社員との直接の対話を通じて現場の現状を聞いています。
また相互理解を大事に、他部門との連携も強く意識しています。営業とバックオフィス、部門と部門が互いを理解することで、最終的にお客さまへの対応力が高まると考えています。
――最後に、読者に向けて、生命保険の価値をどう伝えたいですか。
生命保険は、かつては日常生活の中で意識されにくい存在だったかもしれません。しかし不確実性が高まる現代において、お客さまの関心は入院や死亡にとどまらず、介護や資産形成といった長生きへの備えなど多様なリスクに広がっています。生命保険は、こうした時代の変化に沿って、社会保障を補完する役割を果たし続けてきました。
その価値は、予期せぬ出来事に直面したときだけでなく、日々の暮らしや事業、そして将来への不安に寄り添える点にあります。それを支えているのは、制度や商品だけではありません。お客さま一人一人に向き合い続ける私たちの行動の積み重ねです。
信頼の回復に近道はありません。一度失われた信頼は、簡単には取り戻せないからこそ、私たちはこれからも凡事徹底を貫き、お客さまに寄り添う姿勢を変えることなく続けていきます。その積み重ねこそが、生命保険を社会にとってかけがえのない存在であり続けさせると、私たちは信じています。
