この11月末に施行された改正建築士法をめぐって、建築士業界に危機感が浮上している。

 新たに設けられた構造、設備の一級建築士の資格試験で、構造では5983人が、設備で2727人がそれぞれ合格したが、「地域によっては頭数がとうてい足りない」という指摘が持ち上がっているのだ。

 今回の法改正は一連の耐震強度偽装事件がきっかけ。来年5月から一定規模以上の建物の建築には、構造、設備それぞれの一級建築士の関与が義務づけられた。

 この夏から行なわれた試験では合格率はおよそ50%に上るなど、さほど難関ではなかったが、問題は地域による偏りが顕著だったことである。

 たとえば構造では、鉄骨4階建て以上のビルで建築士の関与が必要になるが、物件数はかなり多いにもかかわらず、合格者のうちじつに1200人が東京在住者で、地方に行くほどその数は少ない。設備はもっと深刻で、582人が東京に集中し、合格者が1ケタの県は14もある。

 これについて国土交通省は「もともと大型建築の設計は、地方の案件でも都心の大手事務所が受注していた。万一建築士が足りない事態に備えて他県の建築士を紹介する制度も整備する」と言う。

 だが、地方の建築士業界の不安は収まらない。「一級資格の有無で施主が仕事を発注する事務所を選ぶことは容易に想像できる。主要な設計業務が都心の大手事務所に集中し、一級を持たない地方事務所は、実際に流れてくるかどうかもわからない報酬の安い補助的業務しかできなくなる」と、ある構造設計業界関係者は危惧する。

 こうした不安を反映してか、国交省でも急きょ資格試験の“追試”を実施したり、構造、設備の両建築士の関与義務づけの時期を5月末から半年間猶予するなどドタバタを繰り広げている。

 2007年の改正建築基準法施行時には運用の混乱から、建設不況がもたらされたのは記憶に新しい。「今度も、また大混乱が起こるのではないか」――。業界ではそんな不安が高まるばかりである。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 鈴木洋子)